『5大採用』 『10大雇用』そして『20大雇用へ』

3回のコラムで、障がい者の雇用を進めてきたことをご紹介しましたが、今回は、どんな背景の人でも受け入れることを目指した「20大雇用」へ至った経緯です。

特例子会社アイエスエフネットハーモニーは、設立当初、アイエスエフネット本社の青山に拠点を置いていました。ちょうどその頃、中野区の田中大輔区長が、障がい者雇用を行うという方針をお持ちで、中野区の商工会館というとてもよい場所を、アイエスエフネットハーモニーに貸してくださいました。設立当初から、ITを行っている特例子会社ということで注目され、個別に見学等は対応していました。しかし、中野区に移ったことにより、何か中野区に恩返しができないかとの想いから、説明会・見学会の開催を始めました。

説明会や見学会は、開催日を決めて、障がいのある当事者の方やご家族、雇用をしたいと考えている企業、自治体様向けに行います。今では日本全国より毎回とても多くの方がお越しくださり、更なる雇用につながっています。また、特例子会社設立の契機になり、地方展開の端緒になるなどしております。

来場される方は、障がい者雇用に関心をお持ちの方が大半ですが、一般的に就労困難であると思われている方々に関する団体の方もいます。失語症の団体の方、難民協会の方、DV被害の団体の方などがお越しになり、「我々のメンバーも雇用してください」と仰るのです。そして、1つ、また1つと、種類が増えてゆきました。

懇意にさせていただいている、オルタナの森摂編集長とお目にかかった際に、『渡邉さん、「10大採用」ではなく「10大雇用」でしょう。「採用」はアイエスエフネットが主眼とっている表現だけと、「雇用」のほうが、わかりやすいよ』とアドバイスいただき、『10大雇用』(森編集長とお会いしていたときは、10のカテゴリーでした)と表記を新たにしました。

いま、大きな問題になっているもののひとつに、DV被害があります。ある報道では、3組に1組のカップルがDV被害にあっているとも言われています。知人の紹介で、DV被害の会の代表の女性にお会いする機会がありました。お話を聞き、その現状は予想を絶する壮絶なものでした。

お金もなくどのように生計を立てるのか、仕事をするのか、就労するための教育など問題は山積みです。大抵の女性は自分が我慢すれば良いと考え、誰にも相談できず耐えるそうです。そして、子供に危害が加わる、致命的な怪我をするなどを契機に警察に相談にゆきます。

『民事不介入』と警察には言われるようですが、シェルターを紹介され、着の身着のままでそこに行きます。そこで、自立に向けて生活の基盤を作っていくのですが、なかなか就労に結びつかず、また生活できるだけの生活水準にはならないそうです。精神疾患があったり、大きな音に反応してしまったり、フラッシュバックを起こすなど様々な課題があります。

その方のご好意により、シェルター等を見学させていただくことになりましたが、前日連絡を頂き、『昨夜1組の母子が入ってしまったので、中をお見せすることは難しいかもしれません』と言われました。残念に思いながら、そのNPOの事務所に伺うと、母子に見学の許可をもらったとのことで、見に行くことができました。

いくつかの部屋とリビング、ダイニングがある一般的な民家でしたが、台所には生活が一通りできる食材があり、各部屋には様々なサイズの洋服や、寝具一式が用意されています。まさに『着の身着のまま』でシェルターに来るため、最低限生活ができるようになっているそうです。食材は、農家の人や、食品メーカーの人からいただいたり、洋服も寄付等でまかなっているそうです。家を見学させていただき、最後に、母子にほんの数分ですがお目にかかることができました。20代前半のお子さんにお目にかかったときに、とっさに『文系?理系?』と質問し『どちらかというと理系』という簡単な会話を交わし、シェルターを後にしました。

翌日すぐに、その代表に連絡を取り、昨日の母子が今後どうなるのか、何か役に立てることはないのか、伺いました。シェルターに長い期間生活することはなく、その団体の運営するマンションに移るか、親戚等の力を借りて生活の基盤を作るということでしたので、しばらく様子を見ることとなりました。

その後、関東近郊で生活を始めるとのことで、就労の意思があるのか、確認をさせていただくと、その方より「何かできるのであれば是非」と回答をいただきました。

しかし、私の「雇用したい!」という強い意志はあるものの、雇用する上で課題は多くありました。DV被害者は住所を特定されることを恐れ、住民票を出すことが出来ません。また、住民票がない人を一般的に企業では採用することが出来ません。加えて、身元保証人を求めることも多く、そんな現実が彼女たちの自立の妨げとなっています。

母子の場合も、まず、住民票を移すことが出来ず、身元保証が取れませんでした。また、DVによる精神疾患も抱えており、通院もあまり出来ていませんでした。これらのことを顧問弁護士に相談したところ、大きなリスクがある、と助言されました。

ですが、課題があればあるほど、それを乗り越えたくなる性格の私は、何とか雇用すると決め、そのために動きました。まず、病状を改善して頂くために通院していただき、医師の就労可能という診断を頂きました。また、身元保証や住民票提出のルールに関しても、社員に説明をしたうえで、特例を作ることにしました。そして、その方とも何度も面会をして「雇用創造をしたいということ、同じような境遇の方に伝えたいこと、社員は理解をしていること」を伝えました。当然、はじめは社長自ら、『働きませんか?』と言っていることを不思議がり、怪しんでいましたが、私の想いを何度も伝えることで納得してくれました。

現在は、女性ばかりの部門に配属し、あまり時間に制約のない業務に携わっています。勤怠がまだ安定はしていませんが、デザインが得意なその方の強みを活かし、私の講演の資料や、告知用のリーフレットのデザインなどをしていただいています。

2011年3月時点で、5大採用から10大雇用になり、同年11月には20大雇用を宣言、2014年7月には20大雇用も24カテゴリーまでになっています。一つ一つが大きな社会課題で、それを解決することはとても難しいかもしれませんが、悩んでいる人の希望になればと想い、日々活動をしております。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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