第36回 海外生産拠点でのサプライチェーン経営

海外生産拠点でのサプライチェーン経営

~調達方針は急がば回れ~

日本企業が初めて海外に出て生産施設を操業、運営する場合、サプライチェーンの効率的、かつ効果的な構築が喫緊で重要である。企業経営の基本である「ヒト・モノ・カネ」の内、海外拠点経営では、ヒトは、現地の人材を求人するが、モノは日本から持ち込んで開業する場合が多い。まずは、現地の工場開業ありきで考えるからだ、しかし、事前に十分に下調べをした上であらゆる選択肢を比較検討して臨むことになる。

① 何のために出ていくのか、目的とゴールを明確にする

出ていく目的は、企業によって様々な事情があろうが、特に部品会社などに多いのが、顧客企業が出ていくからついて行く、又はついて来いと言われたという理由。しかし、企業経営者であるからには保険も必要だ、つまり、親会社やお得意先の顧客が何処まで自分たちの面倒を見てくれるかなど。以下は概して考えられる目的だが、個別には、もっと多くあるはずだ。同時に、ゴールも明示して欲しいものだ。そして、最後は、撤退時期や撤退の条件まで決めておくことが肝要である。

出ていく前に撤退を考えるのか、と言われそうだが、欧米の映画俳優の結婚と同じで、離婚する際の条件をあらかじめ決めておくというのに酷似している。嫌なことは最初にさらけ出すことだ。

② ヒトの採用を人事部に任せてはいけない

基本的には、人事担当が現地の人を採用するが、実際には、調達部門が人材機能の仕様書を作り該当者を選ぶことになる。面接は最も重要な要件で、調達の実務者が主体となるべきである。採用後に一緒に働くのは人事ではなく調達だから必死に人材の価値と成果の潜在性を見極めること。ここで急いではいけない。人事はあくまでも書類上の審査と入社後の社則などの説明役であり、職場を同じにするバイヤーは、人事の提示条件(学歴、職歴、資格など)とは別に職務能力を査定することが中心になる。中途採用の場合は、これが殆どの場合であるが、当該者のもつ人脈、コネ、人材ネットワーク、サプライヤー基盤の有無など実務家としての技能を評価することだろう。

③ モノの調達を現地社員に任せてはいけない

サプライチェーンの上流段階では、原材料や部材、機材などを仕入れることがスタートであるとすれば、全ての材料や機材の注文から納品までを日本人が監督しなければならない。よく、現地化といって現地の社員に任せることを誇りに思う経営者がいるが、それは成熟段階以降の話である。

出発点の創造期、創設段階では、実際に足を運んでサプライヤーを査定、評価することが大切だ。相手との会話を重んじ、言語の専門家を連れて徹底した面談を行う。英語は世界語ではない、それは相互に自国語でない場合、誤解が生じるからである。そして、面談後は、書面に落とし込むことだ。面倒くさいことだが、決してそれを端折ってはいけない。近年では、QCDに加えて、FE (Flexibility, Ethics, Ecology) が大切だと言われている。つまり、当該サプライヤーは、Flexibility 柔軟な姿勢を持っているか、問題に直面した時、臨機応変に対応できる能力を持っているか。そして、企業として、社員のEthics行動倫理の考え方はどうか、社内に購買行動規範を作っている会社は多いが、実践することが大切で、常時、行動規範を復習していなければ意味がない。最後のEcologyであるが、Environment環境に関する考え方であり、資材の供給企業として、自社の工場の環境経営に取り組んでいるか、また自社製品が環境に優しい部材でできているかなどを査定する。

④ サプライチェーンと物流

日本の商慣習との差を慎重かつ厳密に理解してうえで常時、意識しないといけない。日本では、製品を注文すれば、受注したサプライヤー(取引業者、供給元)がトラックなどの輸送手段を手配して出荷する。さらに、顧客の施設まで運び終わった後、注文品を顧客の指示に従って納品する。しかし、これは海外では逆になる。即ち、注文したら、サプライヤーの出荷場所まで取りに行く、という精神だ。アジア、欧米など何処でも普通である。但し、契約により、注文主の指示する場所まで届けてもらうこともできるが、輸送費などの諸経費を払う必要がある。日本では黙っていてもサプライヤーが気を効かして全てやってくれるのと大違いである。この彼我の差を理解するまで時間がかかる。「売って頂く」と言うマインドセットが必要で、駐在前に国内で机上の研修を受けても中々理解できるものではない。

⑤ 当該国の法規制を全社員(日本本社出向社員)が知っておく

駐在員は、当該国の法規制に厳重に縛られているはずだ。日本では、社内に法務部や社内弁護士がいるが、海外では確保が難しいことが多い。従って、購買や営業など専門機能に加えて個人的に法律を相当に勉強しないといけない。勿論、現地の法律専門家を採用するのも良いが、丸投げは避けて欲しい。それは、法律自体が途上国ゆえの明確さに欠けるからである。最近のマスコミ報道に「汚職国際捜査、企業に包囲網 疑い浮上したら各国当局へ申告、対応ミスで罰金高額化」と出ていた。企業が関わる汚職などの不正を各国・地域の捜査当局が連携して刑事事件として摘発する例である。捜査協力を円滑にする国際ルールが整備され、罰金は高額化の傾向だ。企業に求められる対策の水準は高まっており、複数の当局に同じ情報を伝えたり、海外子会社を含む法令順守を徹底したりする必要があると指摘されている。米国と英国、ブラジルの3カ国の捜査当局が、航空機エンジン大手による大型汚職事件の刑事処分を一斉に発表した。1989年以降、12カ国で贈賄を繰り返したとされ、罰金額は計8億ドル(約900億円)にのぼったという事実を聞くと如何に海外での商取引が厳格であるかがわかる。「私は会社のためにやったのです」では通じない世界なのだ。

まとめ

海外経営について取り上げたが、考えてみると国内経営でも同じことが言える。地方での工場建設と操業経営を見据えると、類似の要素が多い。但し、大きな違いは、日本国、日本人という超過保護な社会で育ったニッポンマインドが時には災いすることがあるということだろう。駐在前の事前の研修は何処の会社もやっていることだろうが、社内のインターンシップなどを最大限に活用して急がずに時間を掛けて積み重ねていくことだ。急がば回れは今の社会でも十分に通用するAdageである。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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