第35回 途上国と何ら変わらない日本の事情

途上国と何ら変わらない日本の事情

~霞が関省庁の天下り実態~

これは、決してアジアの途上国の出来事でなく、まがいもない先進国、日本の話である。「文部科学省の組織的天下り斡旋問題で、文科省が2月6日に発表した斡旋仲介役の人事課旧職員に関する内部資料に目を通した職員は言葉を失った。平成25年9月作成の文科省人事課の内部文書には、ノンキャリア官僚にすぎない人間への破格の待遇条件が記されていたからだ。会社顧問に就任 出勤は月2日程度 年間報酬1千万円、さらに秘書給与(年400万円程度)や執務室賃料(月10万円程度)あり。実際、彼はその後、保険会社顧問に同じ条件で再就職し、文科省OBが複数天下る文教協会や教職員生涯福祉財団が家賃や秘書給与を負担した。保険会社顧問はキャリア官僚の局長級歴任者のポストとされ、元事務次官も了承していた。」

官僚の天下りは以前から問題視されていたが、遂に文科省にまで来たということだ。マスコミ報道に依ると、文部科学省の官僚OBが私立大学の「職員」として天下っているケースが多方面で調査されたが、152大学に計576人が天下っていることがわかったと言う。最悪の1位は日本大学の26人、2位は早稲田大学の24人で、慶應5人、上智3人と比べても突出して多い。比べるのもどうかしているが、一般人が大学の教員になるのは非常に難しい、即ちコネが左右する世界だ。これらの大学は、いずれも私学助成補助金が114億、92億と多く、事実上、税金が役人の雇用対策に使われている訳だ。

受け入る私大側の懐事情も深刻で、いわゆる学業という「在野の精神」のかけらも見えない。役人の天下り先に成り下がったダメ大学は学ぶ場としても不適切だが、テレビのコメンテータとして元アナウンサーが大きな顔をして話しているのを見ると情けなくなる。

筆者は、霞が関の複数の省庁へ出講し同職員にサプライチェーンの基礎を教えたことが何度もあったが、防衛省の職員がひどかったのを覚えている。詳しくは言えないが、これらの職員の定年は55歳らしく、講義後に制服を着た数人が質問と称して、問い合わせてきた:「定年後、私を何処で雇ってくれないですか。」

国内では、大学教授になるためには、極めて狭い門をくぐり抜けなければならない現実がある。例えば、国内には600校ほどの大学があり、そこで教授と言われる立場の人は7万人程度いる。直球で博士号を取り大学教員を目指しても少数しかなれないため、皆苦労している、一方、テレビで顔を売れば「○○ママ」のように中学校の教諭でも有名私大の正教授になれる。これでは、まともに勉学に励み知識を積んだ学生はやりきれないだろう。つまり、文系のビジネス関連分野では、むしろ社会人の方がもてはやされる現実がある。理系でも、企業の研究職から大学に戻ってくる人がいたり、反対に大学教授が企業からのオファーを受けることがあったり、産学連携で企業と大学が一体となって進めるプロジェクトがあったり、芸能人やスポーツ選手が教壇に立つこともある。

しかし、前述のように、役人が天下り定年退職の同日に○○大学教授に就任するのは、世間を舐めているとしか言いようがない。東大を出ていても「学士」止まりであり、修士号も博士号も持っていない人間が「天下り」制度を使って簡単に大学に再就職できる実態は、真面目な博士課程の学生から見れば許せないのは当然だ。

私立大学は国公立でないせいか、政府の補助金がもらいにくい体質があるのは誰もわかっている。従って、補助金を交付する文科省のОBを、補助金をもらう側の私大が職員として受け入れるとすれば、癒着の温床となるリスクをはらんでおり極めて不適切である。東南アジア諸国で公務員が公然と袖の下を要求するのと全く同じ話である。似たようなものが半官半民と言う位置づけの放送局の職員の存在だ。多くの薄学の元アナウンサーたちが次第に天下っているが、目立たない。最近では、元アイドル歌手まで私大の客員教授という肩書を持つから不思議を通り越す。学生集めに苦しい無名の私大は客寄せパンダが欲しい事情は分かるが、見ていて恥ずかしくなる。是非とも講義を中継してもらいたいものだ。

日本において私立大学は、学校法人又は株式会社によって設置される大学を言う。学校法人の中には特別の法律によって設置されたり、学校法人の設立に国や地方公共団体が深く関与しているものもあるが、これも私立大学に区分されている。現在では、日本にある多くの大学の内、私立大学は3/4を占め、国公立大学に比べて非常に多い。そして、これらの私立大学は政府から私立大学等経常費補助金等を受けることができる。つまり、学生からの授業料だけで学校経営しているものではない。近年では、構造改革特別区域において株式会社による大学の設置が認められており、これら株式会社が設置する大学も私立大学に分類されるが、株式会社立の場合、助成は受けられない。因みに、私大の学生数は、日本の全大学生の内8割を占めている。

台所事情が苦しい次第は多い原因は、一般的には少子化であろう。特に日本の18歳人口が減少に転じる「大学の2018年問題」を控え、文部科学省の有識者会議が私立大のあり方を考える議論を始めたくらいだ。経営が苦しい私立大の統廃合促進策についても話し合い、2017年3月に報告書をまとめることになっている。一方で、文科省はこれまで、あまりに容易に学校法人格を認可してきたため、乱立する私立大は地方で定員割れから経営悪化が続出し、廃校が相次いでいるのも事実である。経営難の私立大は2018年問題を乗り越えるため、文科省が有識者を集めて議論を始めたまでは良い。検討事項は次の6つ:

  1. 私立大のあり方
  2. ガバナンスのあり方

  3. 財政基盤のあり方

  4. 私立大への経営支援

  5. 経営困難な状況への対応

  6. 私立大振興に関すること

何処の企業でもウェブサイトに持続可能性、CSRを載せているが、学校法人も然りであるが、上記6つの中でのガバナンスが「書くだけ、言うだけ」になっている。

筆者は複数の私大に兼任講師や客員講師として出講しているが、近年の傾向として、アジア諸国から留学生をかき集め、何とか苦境をしのいでいる大学も多い。中国や韓国、ベトナムの学生は、欧米志望だが、コストの面で近場の日本で「学位」を取り、ついでにアルバイトで金儲けもしている。中には日本語ができない学生も多いが、私大としては授業料確保のため無試験で入学させている実態もあると聞く、どうにも情けない。

一方で、筆者が13年間、出講しているフランスの実態はどうか。フランスが世界に誇るものの中に「徹底した平等教育制度」がある。同国の公立学校は、全て授業料無料。核兵器を保有する軍事国家であっても、文部予算は国防省のそれを上回る。小学校、中学校では教科書が貸与されノートや鉛筆の類が支給されることもある。その後の高校(Lycée)は義務教育ではないため教科書は自前だが、授業料はゼロだ。高校3年次にフランス全土で行われる国家試験(baccalauréat)を受け大学へ進学。フランスの大学のほとんど国公立で無償。要するに、フランス共和国では、大学まで授業料というものはない。大学では、約2万円程度の学籍登録料などを負担するのみで、学生の3割は、給付制奨学金を受けている。経済的に弱い立場にある学生ほど手厚く援助され、大学に低廉な学生寮や食堂なども整備されている。ここでの問題は移民の子女であることは明白だが本コラムではテーマが違うので割愛する。

欧州では、大学も含め教育を受けることを「人間の権利」ととらえ、その機会を均等に保障するには、学費はできるだけ無償にすべきだとの考え方が、社会に根付いている。国際人権規約(1966年に国連総会で採択)では、「高校・大学は段階的に無償にする」と明記されており、この条項を認めている国は、154カ国にのぼり学費の段階的無償化は常識とされている。更に、欧州では、教育によって利益を得るのは、学生本人のみならず、社会全体だから、社会が税金で負担するのは当然ということが社会的合意となる。

日本は平和で安全だが、世界と比較すると色々な分野でガラ系なことがわかる。もっともっと世界を見よう。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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