第34回 2017年の展望

2017年の展望

~新しい不透明な時代に突入か~

今年から、サプライマネジメント職、明らかには不確かさ、不透明さに直面することになろう。つまり、常時変化する経済的機会から地政学上の脅威までという意味を指す。米国の新大統領の行政手腕に誰もが見えない不安を抱いているからだ。

≪米国経済展望≫

大統領選挙前、米国経済は堅調であった。消費者支出は上がり、賃金はインフレを越えて上昇し、失業率は5%前後であった。国内総生産GDPは2015年に記録した2.6%より若干増加した。

米国調査会社のチーフ・グローバル・エコノミストによると、米国の新大統領選出は、この成長基調を変えるだろうとみる;2017年のGDPについて、同選挙前に予測した2.7%を下回る2%に改定しているからだ。

次にロンドンに本拠を置く情報サービスの提供会社の博士は断じた:幾つかの課題があるが、新政府は職の増加、税削減、インフラ投資を進めることを試み、また医療保険制度改革まで修正する見通しだと。

これは一体何故だろうか。米国の新大統領は、これまでビジネスの世界で自身が事業を巧みに回してきたように米国経済を牛耳ることができると信じているからだ。「しかし、これは大きな誤りだ」とチーフ・グローバル・エコノミストは言う。さらに博士は「今のところ、GDPの数字は強く見える、雇用数字もぼつぼつ、金融市場もうまく行っている。そのうち景気後退が来るという兆しを信じる理由はないかも知れない。可能性として考えるに20%くらいであり、リセッションが起こるとしても年末くらいになるだろう。」

次の二つの事項が今後の展望に影響を及ぼすだろうと見られている:

  • 失業:

これまで、比較的低く抑えられていたが、同時に人材不足も課題だった。それは、賃上げの機動力でもあった。今や全米で5百万以上の求人があり、企業は確保で争っているのは、職の技能がない人が多いからだ。チーフ・グローバル・エコノミストは「企業が最良の労働者を引き付け、そして雇用維持するように試みるので、給与が上がるだろう。」と期待する。

 

  •  金利:

米国経済を強化することは、12月に金利を上げるという連邦準備理事会内の一つの要素だったが、他に根本的な理由もありえた。もし新大統領政権下で経済が躓けば、連銀はそこで金利を下げたいと思うだろう。

選挙前、連銀は2018年までに2%程度金利を上げる計画だった。経済成長が続くならば、連銀は少し上げるという先例に倣うと期待された。この動きは金を借りたい中小企業に影響を与えた。また、これらの中小企業に悪影響を与える政府規制を緩和することも新政権の第一関心事になるだろう。殆どの規制は2008年の金融危機に対して再発防止策として開発されたものだった。例えば、Basel III規制(後段)は、中小企業の資本増に逆影響を及ぼし、かつ流動性と資金提供を著しく縮小させたからだ。

バーゼルIII

主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が2010年9月に公表した、国際的に業務を展開している銀行の健全性を維持するための新たな自己資本規制のこと。これは、国際的に業務を展開している銀行の自己資本の質と量の見直しが柱で、普通株と内部留保などからなる「中核的自己資本(Tier1)」を、投資や融資などの損失を被る恐れがある「リスク資産」に対して一定割合以上持つように義務づけるもの。一般にバーゼルIIIでは、2008年-2009年の世界的な金融危機を教訓に、仮に銀行が経営危機に見舞われても、返済不要の普通株などによる資金を十分に持っていれば、損失を穴埋めできて危機を回避できるという考え方に基づいている。具体的には、業績悪化時に配当を機動的に減らせる普通株と、過去の利益の蓄積である内部留保が主体の「中核的自己資本(Tier1)」の比率を実質7.0%以上とすることが求められる。さらに、自己資本比率の強化に加えて、新たな指標として「流動性比率」や「レバレッジ比率」を設けることによって、流動性リスクの把握やレバレッジの肥大化抑制をモニタリングする仕組みも導入。なお、バーゼルIIIは、1988年に公表された、銀行の自己資本比率に関する規制である「バーゼル合意(BIS規制)」、2004年に公表された、BIS規制の内容を見直し、より金融機関のリスクを反映させた「バーゼルII(新BIS規制)」に次ぐ、新たな枠組み(規制強化策)であり、2012年末から段階的に導入し、2019年から全面的に適用する予定となっている。

2016年に実施さえた運転資本展望調査によると、1800社(米、英、仏、伊、独)の中小企業の40%以上で2015年以来、運転資金需要が増えたと示された。また借金は、英米が最も高価で、米国企業の回答者は、高金利政策が資金調達を確保するのに自分たちの最大の挑戦だと言っている。朗報として、回答者の61%は将来の長期成長に焦点を当てており、よりグローバルな企業は、イノベーティブな運転資金の解決策を提供するため相互成功に向けてサプライヤーと提携していくことが肝要だと答えた。

この種の商品やサービスの購入は昔から総務部、経理部が担当していました、という理由は通用しない訳だ。何故なら理由を整然と説明できない社員が多かったから。多くの会社で、この仕事は何処そこの部署、このサービス調達は別の部署というように分かれているが、理由が不明なことが多い。特に吸収合併を繰り返してきた会社に多い。大手自動車メーカ社長は所謂しがらみを徹底して嫌った異国人であったが、ごくまともなビジネスパースンでもあった。現下では、スペンドアナリシスが広まっているように見えるが、トップダウン式でないやり方では限度があり元に戻る感がある。それは、実行と理想が異なり、ギャップを埋めるリーダーがいないからだ。チェンジマネジメントという手法があるが、社内の抵抗に負ける購買部署は多い。それは次節で述べる、最高購買責任者(Chief Procurement Officer)の不在、及び経営層の意識の違いが原因である。今一度スペンド分析の基本に振り返ろう。

企業がインターネットを通じて間接材の調達を行った際に発生する「誰が、何を、いつ、いくらで購入したか」というデータが自動的に蓄積され、次に、サプライヤーが受注した品物を「いつ」納品したか、というデータも自動的に蓄積する。企業は、それらのデータを集計・分析し、次の調達のために計画を立て、その結果、もっと良いサプライヤー、もっと良いサービスや商品をグローバルな市場から探していくというソーシング活動が脚光を浴びている。この分析と管理手法により、購買に履歴が可視化される、つまり、分類をうまく設計すれば、サプライヤー別、品目別、単価の多寡別など自由にデータが取り出せるのだ。また、内部統制という経営者が最も関心のあるガバナンスにまで発展するから面白い。権限のない社員が権限を行使する実態が「みえるか」されるからだ。

以下は、弊研究会(CAPS Research Japan)が過去に実施したサーベイ結果である:

グローバル規模の経済展望

前述の博士によると、グローバルGDPの約25%はマイナス金利政策を持つ国々から産出されると言う。チーフ・グローバル・エコノミストが言うには、マイナス金利導入は、政治家が期待するほどには、企業の資金需要に繋がっていないらしい。

マイナス金利政策 Negative interest rate policy

中央銀行が名目金利をゼロ以下に設定する政策であり、経済を刺激するために行われる非伝統的金融政策である。似たような低金利政策にゼロ金利政策があるが、マイナス金利政策は名目金利をゼロ未満にするという点で異なっている。通常の金利政策の下では、民間銀行は中央銀行の当座預金にある準備預金のうち、法定額を超過した部分に対して利子を受け取っている。しかし、マイナス金利政策の下では、民間銀行が中央銀行に利子を支払わなければならない。マイナス金利政策は、その国の通貨を切り下げる圧力につながるため、その国の輸出を促進しうる。また、マイナス金利は民間銀行の資金を退蔵させておくのではなく投資へと向かわせる圧力となる。信用条件を緩和させるように働くため、国内需要への資金の貸し出しを増加させうる。しかしながら、マイナス金利は民間銀行の収益性を損ない、高いリターン率を求める投資家の過剰なリスクテイクを誘発するため、国内金融を不安定にさせる要因にもなりうる。

他のグローバル経済視点では、次の事項が検討課題だ:

  • ブラジルとロシアは、リセッション(景気後退)から緩やかに回復している。
  • 中国は、建設と重工業生産への集中からサービス産業へ転換している。

  • ベトナムは、製造業の方へ展開している。

  • 原油価格は、徐々に上昇しエネルギー関連分野にて潜在的な急成長が見込まれる。

  • 強いドルが米国向け輸出増に示される。(逆に米国輸出は減少)

  • 保護主義と孤立主義の湧き起こる波もまたBrexit投票にようにグローバル貿易に影響する。

他のグローバル課題

経済的要素に加えて地政学的脅威が不気味に表れグローバル市場に潜在的衝撃を与えてくる。チーフ・グローバル・エコノミストによると、次の2年でサプライチェーンのネットワーク全体に影響を及ぼすべき重大な崩壊が導かれるだろう。つまり、次のことが予測できる:

  • 北朝鮮の潜在的な核の脅威
様々な力が君主政体を覆えすようにサウジを不安定化させる。これが成功すれば原油価格が3ケタになり、世界中の製造コストに影響を及ぼすことになり、サプライマネジメントにも明らかに衝撃を与えるだろう。
  • 北朝鮮の潜在的な核の脅威
2016年、北朝鮮はミサイルを20発以上発射した、その幾つかは日本の沿岸から200マイル近くに届いている。「日本は今や軍事予算を組むために税金を引き上げる必要性が出てくる事態に直面する、恐らく核保有軍事国になるかも知れない」(チーフ・グローバル・エコノミスト)
 
  • 南シナ海に対する中国の領有権主張:
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、各国が領有権を争う南シナ海問題を巡り、中国が独自に主張する境界線「9段線」について、国際法上の根拠がないとする判決を出した。南シナ海問題に関する、初の司法判断。中国が進める人工島造成などの正当性は、これで国際法上は認められなくなった。仲裁裁判所はさらに、中国が9段線の内側で築いた人工島は、排他的経済水域や大陸棚が認められる「島」ではないと判断を示した。対する中国は、常設仲裁裁判所の判断を認めないと反発している。ボーモル曰く「もし中国が司法判断を守らなければ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本は、中国に対し米国側に向く立場をとるだろう」

但し、米国の新大統領がどういう立場をとるか予想がつかない。チーフ・グローバル・エコノミストは、この事態を第二次世界大戦以来、海洋の自由に対する最大の脅威と呼び、サプライマネジメント職には特に重大なことだと加えた。資源が豊富な南シナ海では、周辺国が領有権を主張している。海域は通商上の重要な航路(後段)でもある。これは米国企業にとっても中国、ベトナム、マレーシアから出荷される商品の海上輸送にも大変重大な問題となる。世界中の商船貨物の数量の55%、天然ガスの65%がこの海域を通過する。

シーレーン:海上輸送交通路 SLOC(Sea Lines of Communication)

物資のみならず、原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギー資源の通り道として、貿易する国々の生命線である。日本の原油輸入路をみると、サウジアラビアやアラブ首長国連邦などの輸入相手国からタンカーがインド洋を回り、マラッカ海峡を通り南シナ海へ抜けてくる。南シナ海はインド洋と西太平洋をつなぐ、極めて重要な位置にある。特にアジアへの最短路を提供しているマラッカ海峡は世界で最も重要な「チョークポイント(喉)」の一つ。中国やベトナム、フィリピンなどが領有権を争う南沙(スプラトリー)諸島周辺も重要なシーレーンとなっている。中国が人工島をつくり、その上に軍事拠点を設ける事態になれば、確実にシーレーンに影響が生じる。

崩壊への計画策定

サプライマネジメント職は、自社の資産が何処にあるか、サプライ網の寸断の可能性、リスクが何処で最大となるかに注目することだと、ボーモル氏は示唆する。状況を適切に査定判断するにはリスクを取扱い、政治と経済的力学を理解できる特別なチームをもつことだとも言う。さらに同氏は、企業がストレス・テストを実施することを勧める。WHAT-IFシナリオ分析(何かを決定するとき、あり得る場合に関して、結果を計算し、どれが一番いいかを考える手法)にて貴産業のサプライチェーン網の寸断可能性を分析できる。これらの厳しいストレス・テストは、企業が不安定な地政学的環境になる中で何をすれば良いのかを準備する際に益々致命的に重要になってくる。

ストレス・テスト stress test

システムに通常以上の負荷をかけて正常に動作するか、つまり隠れた欠陥がないか調べるリスク管理手法のひとつである。耐久試験。「健全性検査」とは、銀行や国家などの経営内容が安全かどうか調べる検査。通常の検査と違い「経済成長率がマイナス5%」「通貨相場が10%上昇」「国債価格が30%下落」などの検査相手にとって不利な仮定(ストレス)を設定し、その結果として自己資本比率(銀行)や経常収支赤字の対GDP比(国家)などが基準内に収まるかどうかを判断する。

健全性検査により、市場や投資家の漠然とした不安を解消することが出来る。2009年、米規制当局がこれを行ったことにより有名になった。最近ではNニューヨーク連邦準備銀行がBP破綻に伴うストレステストを行い、欧州銀行監督委員会(CEBS)がギリシャ経済危機による欧州の銀行検査を行った。しかし健全性検査に合格することは、完全に不安を解消することにはならない。まず、健全性検査の判断基準は事前に公表されないのが普通で、結果を左右できる。さらに健全性検査に合格しない場合に監督責任が問われ救済措置や財政圧縮が必要になることもあるので、内容や結果が操作されかねない。例えばEUが「スペインの財政破綻」を仮定してドイツの銀行のストレステストをすることは政治的に不可能に近い。2010年の検査では、ギリシャ国債のデフォルトを設定しなかった(2010年欧州ソブリン危機)。

リスクを軽減するには、企業は、不測の事態への対応策〔事故や災害などに備える〕緊急時対応策、及びガバナンス計画を策定し早めに実施することだ。これは無視と顧客への信頼醸成であり、さもなければ貴社は、風評リスクに晒されることになる。博士に依ると、コンティンジェンシープランとは、生産拠点を被害のない場所に移すとか、新規の領土へ拡大させる、またサプライヤー基盤を拡大すること。ベトナムと中国の両方に生産拠点があり、中国で事態が起これば素早く実行可能な形でベトナムへ転換するなど。

前を向こう

過去数年とは違い、今では明確な新興市場はないが、サプライマネジメント職は常に機会を探らなければならない。過度のグローバル化は過ぎ去った。15年前であれば、何をすべきか簡単に分かったが、今では、この先どうなるのか皆目わからない。これは2017年を特徴づける不安定性を強調するものだろう。新大統領の政権のやろうとしていることは先行きどうなるかを予測することを難しくしている。チーフ・グローバル・エコノミスト曰く:サプライマネジャーはサプライチェーンの寸断と崩壊に準備する必要がある。今年こそ重大な問題が起こり、誰もが世界中を往来する商品の流通網を組み合わせて監視する年になる。

そして、最後に言い切った:今年は注意を持って迎え、またコンティンジェンシープランを持つことだ。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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