第33回 電力、ユーティリティ費用の支払の盲点

電力、ユーティリティ費用の支払の盲点

~経営者が見逃す、見落とす間接費の源泉~

一般に企業がコストを削減する実態はマスコミを通して記事になるが、さほど大きなものにはならない。それは売上増や営業利益増に比べてインパクトが小さいからだ。経営者の最も喜びそうな事象をあえて取り上げてマスコミを通じて公知にすることにより企業の宣伝広告にも利用していると言える。社会的責任などはその最たるものかも知れない。特にダイバーシティの本質を理解している企業経営者がどれくらいいるだろうか。多様性と訳されるが、米国ではかなり進んで、企業間取引における売手買手のダイバースに言及することになっている。日本の経営者がグローバルを叫ぶのもいいが実態を伴わない、または他社がそう言うから自社もという姿勢では戦前と変わらない。いつまでたっても島国根性が抜けきらないのである。

1.電力などのユーティリティコスト

これまで企業では、規則規制に縛られて、お上の言うことを聞く優等生が時代を先導してきた。電気ガス水道のユーティリティは手を付けるものでなく、いわゆる触れるべきでない聖域だった。まして、会社のコストを監視する経理部と購買部が何の話し合いもなく過去の担当部署に任せっきりであった。規制緩和という言葉が歩き始める前のことで、大手宅配会社が規制にぶち当たっていた時期である。

一般に日本企業における購買調達部門は、製造原価の直接費と間接費を取り扱うことが多いため、その他の支出、経費は、歴史的に他部門が扱っていることが多い。いわゆる購買調達のプロでない社員が本来のプロとしての仕事(総務、労務、人事、組合交渉、経理、財務、決算)から離れて「購買」をする訳だ。購買の基本がわかっていない社員がする仕事は、非常に裁量性に富むことになり、変なプロ意識を産み、後任者が現れないことになる。属人的に購買の仕事が集中し人材が育たない(育てなくとも良い雰囲気)ことになる。電気ガス水道のユーティリティが正しくこれに分類される。概して、このユーティリティについては、施設部や総務部が契約する場合が多かったが、欧米諸国では変わってきている。この点は、後段に再度触れる。

2.購買カバー率

後段の図1に記載しているカバー率という表現は、日本人には聞きなれない言葉であるが、欧米では一般化している。スペンドアナリシス(支出分析)とは、企業の支出を効果的、効率的に経営管理、運営していこうというものだ。会社が外部に支払う製品やサービスの費用を適度に抑えると言うと理解が早いだろう。日系企業ではなかなか進んでいない領域だが、欧米各社は社運をかけて取り組んでいるところも多い。購買部署が企業の支出をどれくらい見ているか、扱っているかという指標であるが、欧米に比べて大きな差が見て取れる。

日本の大企業では、原材料の調達に大きなリソースを割き、その他の間接材などは各使用現場に発注を任せていたという慣習があったようだ。製造業では、直接材料を意味し、その原価を最適に維持することが最大の命題でもあった。売上原価に響くからであり、某電機メーカーでは「売上原価70を切れ」というトップの命令もあったと聞く。電器産業では、一般に売上原価率は70-80%と言われていた時代だ。近年は日本在の外資系企業の影響、また日系企業もコンサルタント起用で指導されたこともあり漸増しているのが現状だろう。

日本の社会では組織で動いているため、「誰が」と言う質問は嫌われ、答えは「購買部門」となる。個人を特定しない傾向にあるが、グローバル経済では通用しないだろう。

会社には多くの種類のステークホルダーが存在する。購買職にとって最も厄介だが重要なのは、概して社内ユーザーである。所謂、機器や部材、原材料、サービスを需要する各部署である。彼等を重要視しなくては会社が回らないのであるが、実態はそうでもないらしい。

今回の研究会では、購買職の全社での位置づけ、という観点から考えてみた。別紙に欧米のファクト(事実の数字)を提供しておく。

図1:購買カバー率

Managed Spend by the Supply Management Group

More and more sourceable spend is being managed by supply/procurement groups. Such growing influence means a more strategic approach, increased savings and greater protection from supplier risk.  The average % of managed spend for all companies is 82.9%.

Source: CAPS Research "Cross-Industry Report of Standard Benchmarks" published July 2015.

さて、日本企業の購買カバー率が気になるが、前述のISM/CAPS日本研究会のアンケート調査結果では、純日系企業:60-70%前後、日本在外資系企業:80-90%と出た。これも、全体的に母数が少ないので一概には言えないが、社員へのヒヤリングでも「近年、扱い範囲を増やしている」と答えた人が多かった。大きな転換点は大手自動車メーカの社長の手腕によるところだろう。コストカッターと呼ばれたが非常に綿密に現実を見る実業家であることは誰もが認めているところだが、日本式の「理由なき慣習の踏襲」は決して許されなかったと聞いている。

※スペンドアナリシス(調達履歴分析) 過去の調達履歴データを分析し、重点品・重点調達先を選定し、過去のCR率、CR実施施策内容、コスト分析と価格の決定方法、調達先水準などの実態調査を踏まえ、調達先にとっても論理的で納得性があり、大幅なコストダウンを実現する施策を検討・選定するための分析手法。

この種の商品やサービスの購入は昔から総務部、経理部が担当していました、という理由は通用しない訳だ。何故なら理由を整然と説明できない社員が多かったから。多くの会社で、この仕事は何処そこの部署、このサービス調達は別の部署というように分かれているが、理由が不明なことが多い。特に吸収合併を繰り返してきた会社に多い。大手自動車メーカ社長は所謂しがらみを徹底して嫌った異国人であったが、ごくまともなビジネスパースンでもあった。現下では、スペンドアナリシスが広まっているように見えるが、トップダウン式でないやり方では限度があり元に戻る感がある。それは、実行と理想が異なり、ギャップを埋めるリーダーがいないからだ。チェンジマネジメントという手法があるが、社内の抵抗に負ける購買部署は多い。それは次節で述べる、最高購買責任者(Chief Procurement Officer)の不在、及び経営層の意識の違いが原因である。今一度スペンド分析の基本に振り返ろう。

企業がインターネットを通じて間接材の調達を行った際に発生する「誰が、何を、いつ、いくらで購入したか」というデータが自動的に蓄積され、次に、サプライヤーが受注した品物を「いつ」納品したか、というデータも自動的に蓄積する。企業は、それらのデータを集計・分析し、次の調達のために計画を立て、その結果、もっと良いサプライヤー、もっと良いサービスや商品をグローバルな市場から探していくというソーシング活動が脚光を浴びている。この分析と管理手法により、購買に履歴が可視化される、つまり、分類をうまく設計すれば、サプライヤー別、品目別、単価の多寡別など自由にデータが取り出せるのだ。また、内部統制という経営者が最も関心のあるガバナンスにまで発展するから面白い。権限のない社員が権限を行使する実態が「みえるか」されるからだ。

以下は、弊研究会(CAPS Research Japan)が過去に実施したサーベイ結果である:

 第1グループ (最も多くの企業)

原材料、部品、MRO、設備機器、燃料

 第4グループ

通信業務、旅費交通費、広告宣伝、コンサルタント、電気・ガス・水道

 第2グループ

コンピュータ機器、コンピュータソフト

 第5グループ

不動産、保険、福利厚生、法律、観葉植物、警務サービス(殆んどの企業の購買部門が扱っていない品目分野)

第3グループ

建設工事、輸送契約、車両・航空機

その他

人材派遣・人材採用、監査会社の選択、資金

日本企業の平均では、第3、第4グループにもメスが入っていない実態がわかる。

3.電力の自由化

電力自由化は、経済産業省が推し進めている施策で、従来、地域の電力会社による独占販売を自由に競争できるように変革したもの。同省によると、

  1. 市場競争の発生による多様なサービス発生
  2. 省エネルギー意識の拡大
  3. 再生可能エネルギーへの転換期待

実際にそうなのかと疑問に思えるが、この電力自由化が始まると、これまで電力の消費者は有無を言わさずその地域の電力会社としか契約できなかったが、今後は消費者が自由に電力の供給者を選べるようになる。いわゆる他の製品同様に競争原理が働くわけだ。例えば、電気料金の引き下げ、セット割の適用、時間帯別料金の導入が考えられる。電力自由化により市場が活性化されることで消費者に新たなメリットが現れる。これまで政府の指針によって既存の電力会社は、ある程度の幅の範囲内でしか電気料金を決定することができなかったからだ。電力供給源からいろいろなメニューが提示されると省エネにつながり、電気使用量の逼迫を避ける効果も期待できる。もう一つは、再生可能エネルギーへの転換の推進が期待できることだろう。例えば、新しい電力サプライヤーは、バイオマス発電や太陽光発電に力を入れているところもあり、環境に優しいイメージが備わる可能性もある。

4.まとめ

これまで話してきたことは、企業のサプライマネジャーのマインドセットという狭い範囲の話ではなく企業全体の話である。日米のサプライマネジメントを長く経験してきた立場から思うことは、日本人は新しい事象にすぐ飛びつくが忘れるのも早いということ。例えば、

  • SOX(企業改革法)
  • BCP(事業継続計画)

  • CSR(社会的責任)

  • ABC(活動基準原価計算)

  • EVA(経済付加価値)

  • ROE(純資産利益率)

  • ERP(基幹統合計画)

など多くの欧米輸入の経営手法や法律が日本経営に浸透してきたが、今では過去の遺産となったものも多い。今回の電力などこれまで聖域であったコスト分野に切り込む姿勢は評価できるし、前向きにまた継続的に取り組んで欲しいものだが、決して飽きないで持続して欲しいことだ。

継続は力なり、という言葉は、現代の持続可能性の根幹に関わるものと捉えたいと思うが皆さんの意見は如何であろうか。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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