第32回 サプライチェーン職彼我の差(第3回)

欧米またアジア諸国との彼我の差【第3回】

~日系企業のサプライチェーン職の強みと弱み~

本シリーズの最後は≪何となくわかる違い≫について考えてみたい。

  1. ブラックボックス現象
  2. 経営への貢献度の見える化(年次報告書に明記しよう)

1.ブラックボックス現象

前コラムで主に日系企業が人材教育にあまり投資をしていないという調査結果が出ていたと述べた。国内では、企業が何故社員のスキルアップのための教育研修に金を出さないのか大いに疑問である。例えば、筆者が国内のビジネススクールで講義をしていると、大方の学生は社会人だが、彼等はサプライチェーンや購買調達業務を知らないことが多い。中には自分の会社内に同部署があることさえ認識していない輩もいる。また、ブラックボックスという声も聞こえた。これの意味するところは、自社の購買部は何をしているのかわからないということだ。次項にも述べるが購買機能が全社で十分に理解されていないということだろう。

購買の機能が全社で評価が低いのは、同じ会社の社員の知らない業務を経営者が評価できるわけがない。まして、サラリーマン役員が自分の育った仕事しか知らず、いきなり購買サプライチェーンの管掌役員になっても購買職社員への評価が限定的になるのは当然だろう。社内できちんと購買機能を広報しているかどうか、特に本機能は、営業や経理、人事(人材開発)のように一般的に理解されやすい機能でないために、より一層の努力が求められる。米国では盛んに「コストセンター」から「プロフィットセンター」に移行しようというキャンペーンが貼られているほど、米国でも購買機能の付加価値の根源が認識されていないのが現状である。

一方で、EU諸国では、多くの大学、大学院、ビジネススクールで「国際購買学部」、「サプライチェーン経営学部」が存在し、志望する学生が増える一方である。筆者が2003年から特任教授として出講しているパリ商科大学グランゼコールでの担当は「国際購買研究科」であり、初期の20名から現在では40名に増えている。基本的にはフランス国籍の学生が多いが近年では、インド、中国、東南アジアの学生が急増している。しかし、日本人に出くわしたことはここ10数年で全くない。

日本企業がサプライチェーンという経営管理に興味がないからであろうか、あるいは、個人が留学に愛想を尽かしているためだろうか、残念でならない。特にフランスの学生に関して言えば、学部でエンジニアリング、化学、農学、ITを学んだ学生がインターンシップを終えてグランゼコールに進学することが多く、より就職に有利な購買サプライマネジメントを修了し、大手企業に職を求める。大学院でもインターンシップを経験し、この場合は、企業の購買、サプライチェーン部に配属され実務を体験する。従って、希望の企業に就職後は、即戦力になっていると聞く。

2.経営への貢献度の見える化(年次報告書に明記しよう)

購買業務と機能が全社員の中でどれだけ理解されているか。ある石油会社では、都庁のように購買機能がブラックボックス化しており、購買職が、何をしているのか、何処で決まっているのか、良く見えないと聞いたことがある。しかも、実は、同じ会社の社員がそのように言っているのである。購買業務の事務工程には多くの部署が関与するが、最終的な決定は、同部門が行う;つまり、発注先、発注金額、納期、品質(仕様・材料規格など)。

取引の基本条項は、法務部門との合意で行われるが、だいたいの場合、一連のサプライヤー名簿があり、既にサプライヤーの認定が終わっており、基本合意が出来上がっているため、購買部門は個別契約(いわゆる注文書発行)を取り仕切ることになる。そして重要な案件は、部門の内部で全てが決まることが多い。購買部署の中に、広報という機能はないため、社内外への発信手段を持たない故、部外の社員が同機能を十分に認識できていないということだろう。しかし、会社の公式ホームページを見ると明確に「調達購買組織」が載っており、また、社会的責任と環境に優しい部材を購入する、ダイバーシティを重視する、我が社は中小企業のサプライヤーにも購買窓口は常にオープンだと書いてある。これが真の実態だとすれば、社外への広報が十分であるのに対して、同部門は社内顧客(社内の各部門)に対して無発信であり、殻を閉じているとしか思えない。

例えば、会社の通信簿(成績表)は、正に決算書であり、外部に向けては「年次報告書」英語ではアニュアルレポートというものが毎年、発行されている。その中に購買機能の記述がどれほどあるだろうか。報告書の中で代表取締役がサプライチェーン、購買機能について、当該年度の成果などを話しているであろうか。これまで見たこともない人は多いだろう。ブラックボックスの詳細は、次の通りである:

  1. 誰がどのようにして価格を決めたのか。
  2. 誰がどのようにしてサプライヤーを探したのか。
  3. そのサプライヤーを誰が如何にして評価したのか。また、その評価指標はあるのか。
  4. サプライヤーが被災した場合のBCP;特に部材の安定供給確保の策はあるのか。
  5. サプライヤーが品質事故や納期遅延を起こして買手会社にマイナスの影響を与えた場合、誰が責任を持つのか。

日本の社会では組織で動いているため、「誰が」と言う質問は嫌われ、答えは「購買部門」となる。個人を特定しない傾向にあるが、グローバル経済では通用しないだろう。

会社には多くの種類のステークホルダーが存在する。購買職にとって最も厄介だが重要なのは、概して社内ユーザーである。所謂、機器や部材、原材料、サービスを需要する各部署である。彼等を重要視しなくては会社が回らないのであるが、実態はそうでもないらしい。

今回の研究会では、購買職の全社での位置づけ、という観点から考えてみた。別紙に欧米のファクト(事実の数字)を提供しておく。

フランス雑誌:購買レターの記事『購買部門長が結びつく他部門』アンケート結果

上図は購買部長が社内のどの部門に報告しているか、というサーベイ結果である。左端グラフに示す通り、第三次産業では、22%(2015年)から39%(2016年)へと本社の最高意思決定部門への結びつきが大幅に増えている。全産業でも、本社の統括部との結びつきが半分に迫っている。この意味するところは、従来の財務部門との結びつきから経営本部との結びつきが増えて経営の中枢に近づいていることだ。経営陣も購買調達サプライチェーン機能をより重視し出した証でもある。翻って日系の場合は、財務部門との結びつきが希薄で製造、施設との関係が相変わらず強いのは、実務部隊としての機能がメインだからということができる。いわゆる戦術機能であり、戦略的な機能を期待されていないと見ても良いだろう。

冒頭に「サプライ年次報告書」の記述を求めたのは、経営層と社内ユーザー向けの訴求である。よく聞く話が、博士号を持った社会人の新入社員が研究開発や設計部署に配属され、彼らの専門研究の実績を上げるため、入社がいきなり親しいサプライヤーに機材、試験品、材料などを発注することがある。同部署の上司にも責任があるが、新人が社内の購買業務工程を認識していないからだ。彼等は設計、企画開発のために入社し、一定期間内で結果を出さないといけない。社内の購買工程は複雑である以上に時間がかかるのを恐れるからだ。両者間の意思疎通が貧弱な場合、必ず事故が起こる。欧米では以下に示すように「バックドア売買」という:

"Backdoor" buying and selling 裏口取引とは

refers to an arrangement between a supplier and a customer that circumvents the customer's normal purchasing rules. Metaphorically speaking, the supplier is dealing with the company through the "back door" rather than at the front of the shop, where legitimate business gets done. Backdoor deals are problematic from an ethical standpoint, and in some cases may even be illegal.

購買部門を介さない売買取引のことで訪問する会社の正面玄関から入らずに裏口から出入りすることを意味する。倫理面の問題だが、時には違法ともなる。

欧米でも同じく「マベリック・バイング」が頻発しており学者も次のように防止策を唱えている。何がない普通のことだが日系企業の社員には実に参考になるものだと思う。

How Can You Stop Maverick Buying? 如何にして違法購買を止めることができるか。

Maverick buying happens when a purchasing department establishes an enterprise-wide contract, yet many users within the organization still buy from other suppliers.

違法購買は、購買部が全社版契約を作っても社内顧客は他のサプライヤーを見つけてきて購買行動に進むものだ。

  • Step #1: 

Prohibit maverick buying as a company policy. The most important component of preventing unauthorized purchasing is to ensure that top management adopts it as a company policy, not just a purchasing policy. With company policies, there is an implication that, if you break the rules, you will be disciplined. This serves as a strong deterrent. 

購買方針でなく経営者の企業方針とすること。

  • Step #2: 

Establish clear processes. There should be clearly defined ways of properly buying goods and services. The purchasing department should document how goods and services are to be bought and this documentation should be a source of reference for any employee who needs to make a purchase.

明確な購買業務工程を確立すること。そして、購買業務の履歴が効果のある購買の源泉だと知らしめること。

  • Step #3: 

Educate potential offenders. It is important to have an education program, led by the purchasing department, that helps people understand what the approved and prohibited ways of purchasing are. Many times, the primary reason employees engage in maverick buying is that they are unaware of what they should be doing. Additionally, educational programs enable purchasing departments to also explain why it is important to purchase goods and services in accordance with company policy - many employees do not know such rationale and think that policies are just put in place for the sake of bureaucracy.

購買規定が存在する合理的な理由を知らない社内顧客と違反者を教育すること。本規定が官僚的な規定だと思わせないこと。

  • Step #4: 

Use technology. Technology, such as eProcurement systems, can be implemented to ensure compliance. By funneling potential offenders to the correct goods, services, and suppliers and making it the easiest way for them to purchase in that manner, compliance can be easy. Plus, eProcurement systems offer controls that can prevent unauthorized purchasing.

「電子購買」ソフトなど情報技術を有効に使うことで社内コンプライアンスを確保できる。

  • Step #5: 

Monitor spend and take corrective action. It would be nice if all you had to do was to put in rules and they would be followed. Unfortunately, that’s not how the world works. That’s why there are security guards, police, referees, prefects of discipline, and others in enforcement roles. You have to watch for unauthorized purchasing and then approach the offenders. Doing so may reveal weaknesses in policies, procedures, or communication or, on the other extreme, it may reveal individuals who have less-than-noble intentions. 

支出を監視し是正行動をとること。

  • Step #6:

 “Outbuy” internal customers. Some internal customers will think that they can perform purchasing activities better than you. When you’ve demonstrated that you’ve made the best purchasing decisions on behalf of the company, compliance will be at least a little easier.

社内顧客をアウトバイすること、つまり購買が彼等より良く買うこと。社内顧客は自分達の方が安く、早く、良いものが買えると錯覚している。この行動を実力で示威することで彼等を納得させること。

究極の目標は、企業の発行する年次報告書に購買実績を記載することだ、つまり、記載できるだけの実績を上げることに他ならない。これは、経営者でなくCPOレベルで成績を常に役員会に報告することだろう。

  1. 原油価格上昇の予測から在庫を積み安定供給確保に努める。
  2. 自然災害を予測して供給源を多様化する。
  3. 海外サプライヤーの購買倫理・コンプライアンス調査結果をまとめる。

ここでは、なるべく経営者にとって喫緊の課題を頭出しすることを勧めたい。

3.社内・社外アンケートの実施

費用のあまり掛からない調査である。自分たちを第三者評価することで、襟を正すことができる。多くの日系企業には寝耳に水かも知れないが、効果は期待できる。勿論、社外のサプライヤーや株主には無記名で回答を入手する。社内顧客には記名式で良いだろう。

社外サプライヤー向け質問例:

  1. 当社のバイヤーは購買対象品を正しく理解しているか。
  2. 当社のバイヤーは貴社と公正に対処し公平に対応しているか。

社内顧客向け質問例:

  1. 当部門の購買担当者は常に適切に貴部門の要求を受け付けているか。
  2. 当部門の購買担当者の対応は適切か。(席外しが多いとか、中々掴まらないとか)

4.まとめ

再度、目次に従って購買職が改めないといけない事柄を書いておく:

① 購買社員数比率:

バイヤーの数を増やせ。それだけ価値のある部署だから必ず会社に利益をもたらすはずだ。

② 購買カバー率:

比率を上げろ。欧米は80%に近い。昔ながらの旅費交通費、通信費、広告宣伝費、人材派遣の費用、不動産・社屋賃料、保険、リース代金など、全ての支出を購買経由で見直せ。必ず、無駄な経費が節減できるはずだ。

③ CPOの存在:

経営会議に購買生え抜きの役員を入れろ。最高調達責任者(CPO)とCFOを競わせろ。お互いに認め合えれば、会社利益に貢献できるはずだ。

④ ローカルコンテント法への対処:

海外事業のサプライチェーンを購買職に移譲せよ。縦横無尽に動ける購買職が必ず海外事業にメリットと利益をもたらし、リスク経営に貢献でき、かつ材料と部材、設備機器の安定供給を確保できるはずだ。

⑤ ブラックボックス現象:

社内広報に一層の努力をせよ。社外のサプライヤーと同じくらい社内顧客向けに営業せよ。購買職がどういう仕事をして会社利益に貢献しているかを社内広報し、全社員に知ってもらう。

⑥ 社内顧客の声に耳を傾ける:

社内ユーザーは、購買部門の社員を同査定しているのだろうか。彼等向けのアンケート質問表を送ることで忌憚のない意見を聞くことができる。

⑦ 社外ステークホルダー(主にサプライヤー)の声も聴く:

社外顧客にも送れば、効果てきめんだ。サプライヤー以外に、監査人、株主、下請け業者、関係会社、系列企業も含まれる。

⑧ 経営への貢献度の見える化(年次報告書に明記しよう):

毎月購買成果月報を社内、社外、関係会社宛に出せ。自慢できる成果は大いに誇示して良い。当然ながら社内外から指摘を受けるだろう。指摘を受ければ受けるほど社内でのステータスも上がり、同時に購買成果も上がっていく。半期報や年次報告書で一定期間の購買成果を公表しよう。購買職の動機づけにもなるはずだ。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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