第31回 サプライチェーン職彼我の差(第2回)

欧米またアジア諸国との彼我の差【第2回】

~日系企業のサプライチェーン職の強みと弱み~

先月の続きである。前回は、明らかな数字による違いということで、1.購買社員数比率、2.購買カバー率の2点を取り上げて目に見える違いを訴えた。今回は、実態による違いを考えてみたい。

  1. 最高購買責任者CPOの存在
  2. ローカルコンテント法への対処

≪何となくわかる違い≫

  1. ブラックボックス現象
  2. 経営への貢献度の見える化(年次報告書に明記しよう)

1.Chief □□□Officerについて

80年代後半から米国で使われるようになった「チーフ○○オフィサー」とは、最高経営責任者として訳されるCEOが企業内のトップとなる。いわゆるchief executive officerであり、米国内の法人において理事会(取締役会:board of directors) の指揮の下で法人のすべての業務執行を統括する役員、執行役員又は執行役(officer、又は executive officer)の名称、若しくは最高経営責任者として選任された人物。英国では、同様の職務を行う役員を業務執行役員(managing director)と言うそうだ。非営利団体ではエグゼクティブ・ディレクター(executive director)とも言う。CEOの職務は、理事会又は取締役会の指揮の下で法人のすべての業務執行を統括し法人経営に責任を負う。 米国法律協会(American Law Institute)による「企業統治の原則:分析と勧告」(Principles of Corporate Governance: Analysis and Recommendations)にて、法人の最高経営責任者は、主要上級執行役員に分類される。米国の営利法人では、取締役会長がCEOを、社長がCOOを兼任することが多い。

日本では、会社法349条の規定により、会社の代表権を持つのは取締役または代表取締役、委員会設置会社については代表執行役であり、最高経営責任者 (CEO)、最高執行責任者 (COO)、最高財務責任者 (CFO) 等の名称の役員の権限や責任に法的な裏付けは無く、社長や会長と同様に会社の内部的職制の名称という位置づけだ。

2.最高購買責任者(Chief Procurement Officer)の存在

続いて、CPOであるが、此の職位は、海外では大変重要なものであるが、日本では全く重要視されないどころか、同職位を設置している会社は稀である。但し、国内の外資系各社は、立派に同職位を設置、また維持し、社内コストの削減に精を出していると聞く。多国籍の外資系企業は、アジア地域の購買本部をシンガポールなどに置いている場合が多く、そこに外資の本社からCPO役員が派遣され駐在している。日本支部の購買役員は、アジア太平洋地区のCPOの支持の下で徹底的に購買コストの低減に取り組んでいる。そのコスト最適化の成果報告は、欧米に在る本社の経営委員会に上げられ人事査定が行われるという。目標管理が徹底されており、ぬるま湯につかっているような体質の企業とは異なるため、個人の意識も極めて高い。特に外資系企業が此の職位を保持し、実績を上げていることには、立派な理由がある。米コンサルタント会社がGlobal CPOサーベイ2016結果から次のようにまとめている:

  1. マーケットの見通し:成長が鈍化しつつあるグローバル経済の中で、約4分の3のCPOが企業利益の改善や購買業務の費用の削減につながる調達コスト削減に最優先で取り組むべきだと回答している。
  2. 事業への関与:調達部門が製品やサービスの企画、生産、営業活動における役割を強めるべきとの意見は強い。しかしながら調達部門と他部門との関係性は成熟しておらず、例えば調達部門が新製品開発業務に恒常的に関わっているとの回答は僅か18%に留まっている。
  3. 人材スキル:調達部門が調達戦略を遂行するのに十分なスキルを有していないと考えるCPOは62%に達している。本サーベイを開始して以降このギャップは拡大しているにも関わらず、社内研修やトレーニングに対する投資額は縮小傾向にある。
  4. 調達組織:調達部門はグローバルに展開するビジネスに対して限定的な貢献しかできていないと捉えられており、事業横断的なサービスレベルの標準化やビジネスプラットフォームの統合といった流れに呼応して、グローバル事業への貢献を高めていくべきだと考えられている。
  5. テクノロジー:調達戦略策定といった上流工程業務では、コグニティブ(経験的事実認識)分析やクラウドソーシング、デジタルレポーティングなどの情報系の技術が迅速な意思決定に必要な情報提供を可能にする一方、下流工程の調達業務においては、セルフサービスソリューションやプロセスオートメーションといったテクノロジーが徹底した業務効率化の追求を可能にしている。

本調査結果からは、日系の外資購買役員と言えども、当該企業の中核ビジネスに関与できていないこと、購買人材のスキルアップが研修予算の制約でままならないこと、本社が掲げるグローバル事業には手がついていない、ということが明確になった。企業内の調達に関する最高責任者は、CPO職であるので、責任が明瞭ではっきりしており言い訳は効かない。どこかの自治体のように成果未達の原因が不明で誰も責任を取らないということはないのである。CPOが全責任を取る、よって同職の報酬は高額になるのは当然だろう。

3.ローカルコンテント法への対処

欧米でも保護主義が蔓延しつつある環境で、新興国や途上国でも同様に、地産地消を迫られるようになってきた。時代がそうさせているのかも知れないが、日本の製造業も海外ではこぞって現地調達を志向し、当該国の政府自治体から表彰されている。しかしこれは一部の現象であって大筋は違うところにある。進出国のローカルコンテント法とは、その国の原材料や部品、製品を買いなさいということであり、この事態が実際に生じると、アジア諸国などに進出している日本企業の工場責任者は、恐らく手をこまねいてしまうか、本社に相談する。現地採用の購買課長や担当者は、現地のメーカーを開拓し、ローカルコンテントを引き上げることに協力するが、真の購買戦略の訓練を受けていない、素人のローカル人材に任せておくと問題が山積するのは目に見えている。好例が地元業者との癒着である。日本人担当マネジャーが見えないところでローカルサプライヤーと机の下で手を握るのは古今東西もそうであったが、法律を金科玉条のごとく守るという大義名分でサプライチェーンが乱されるという訳だ。

同時に、現地国のサプライチェーンを軽視していると工場がストップすることもありうる。サプライチェーンを効率的に効果的に回すことは現地会社のCPOの最優先任務である。これは何も途上国だけの問題ではなく、欧米諸国でも起こりうる事態で、経営者はもっとサプライチェーンや調達物流を重視すべきであるという証である。海外で仕事をした経験がない日系企業のトップ層は、国内での事業経験を最大限適用しようとする。では、ローカルコンテント法を順守したくとも、現地国に優良で適切なサプライヤーがいない場合、どうするか。

  1. 先陣者(欧米系)に聞く
  2. 現地の有力者、有識者に聞く
  3. 政府自治体の幹部に聞く
  4. 日本在の現地国大使館商務部に聞く
  5. 華僑、印僑、ユダヤ商人組織に聞く
  6. 海外コンサルタントに聞く

Local-content Bill

米国内で自動車を販売するメーカーに米国産部品を一定比率使用することを義務付けようとする法案で1981年以降毎年のように米下院に提出されているが廃案になっている。同種の主張はECでも問題となっている。日本のメーカーは現地生産に切り換えたが、現実は、日本から部品を持っていって組み立てる、いわゆるスクリュー・ドライバー工場が多いところから、ECは現地部品調達比率40%に満たないものについて輸入部品にダンピング課税している。日本政府はこの部品ダンピング課税がGATT/WTO違反であると提訴していたが、1990年3月、GATTの紛争処理小委員会は日本の主張を認める裁定を下した。

ローカルコンテント法は法律であるため、蔑ろにできない。法令順守の精神からローカルのサプライヤーを探すことだが、これは素人では容易でないため、プロを起用することになる。育成購買という言葉があるが、現地国でサプライヤーを育てる方法がある。時間はかかるが、日本流または欧米流の生産技術、生産管理手法を伝授することだ。特に統計的品質管理技法は日系企業が最も注目するところであり、国内には多くのプロバイダーがいる。QCDを徹底的に学ばせてサプライヤーの製造品質のレベルを引き上げる。これができるのは工場長ではなくサプライチェーンと購買調達を熟知しているプロの人材であるが、国内または、社内には、そういう人材が育っていないことが多い。

往々にして途上国での日本人社会がガラ系であることは有名だ。同じ言語を話す人間同士が集まって様々な祝い事を繰り返す。逆に言うと、現地に溶け込もうとしないわけだが、

その理由は何か考えてみると

  1. 社命でいやいや派遣された
  2. 数年の辛抱で家族と離れて働いている
  3. マネジャーに昇格するための試練と決意
  4. 仕事と遊びを別に考えて前者はローカル化、後者は日本化でいく

海外経験者から言わせると、4.「遊びは日本化」がいただけない。遊びこそ現地に溶け込む絶好の手段だからだ。先に挙げた現地の有力者や政府関係者への接近も遊び心から来ると言いたい。現地社会での様々な会合、財界の集まり、商工会の集い、自治体の催しには頻繁に顔を出すことを勧めたい。日本では、ライフワークバランスが議論になりつつあるが、彼の地に行けば、これが程よく均衡を保てるから有効だ。一緒に遊び、一緒に情報を共有し、社会に溶け込むことに徹して欲しい。日本人だけで固まらず、現地国の上層部また外国人経営者と付き合うことで、見えないものが見えてくること必至だ。

途上国では、欧米人も日本人も同じ境遇となるため仲間意識が生まれるのが面白い。お互いに外国人ということで共通の認識が生まれ、日本にいる時以上に分かり合えることがある。特に、自然災害が頻繁に起こるアジア諸国では、共存共栄の精神が喫緊であり、リスクに対する欧米人の認識や危機感を学ぶことは甥に有益だ。

4.グローバル危機管理と外国公務員贈賄罪

ここで、今一度、海外での贈賄などの腐敗行為がグローバル・リスクとなることを説明しておく。前項で海外での人脈作りを語ったが、これから話すことと決して混同してはいけない。日本では考えられない法律が発展し蔓延している事実を認識することから始めなければならないことだ。

例えば、米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)で、米国企業の国外、東南アジア諸国での行為も処罰対象になる、といった「域外適用」があること。また、莫大な制裁金、内部通報者に対する報償制度などにより、不正行為の摘発が容易になっていることも、重大なリスクの要因と言われている。その上で、企業がどう取り組むべきか。「ただ行動規範を定めて終わり、ではなく、経営トップがアクションを起こすべき、つまり、自分の進出している国の実態を見て、それに対応する合理的な措置をとることを強調したい。

過日、日本で海運大手10社に公正取引委員会の立ち入り検査が入るニュースがあった。アメリカ、EUでも既に調査が始まっている。同年春には、ベアリングメーカーの価格カルテルも日米両国で報道され、近年、日系企業の独禁法事件が目立っている。独禁法違反の罰金は米国政府の大きな財源とも言われ、昨今台頭のめざましいアジア諸国は、景気停滞の続くアメリカにとって願ってもない取締りのターゲットになっている。

社会、企業がグローバル化して久しいとはいえ、いまだ談合文化が続いている日本企業は特に注意が必要である。独禁法違反は、当然アメリカでも刑事事件となり、日系企業から逮捕者が出ている。違法行為のスキャンダルも含め、独禁法違反は莫大な損失を企業に及ぼす。在米の日本企業は、コンベンションや業界の会合などだけでなく、新年会やゴルフトーナメント、勉強会、親睦会、或いは地元の日本レストランなど、必ずしもビジネスの場でない場所でも同業者が顔を合わせる。これは、日本人の常識が世界では通用しなくなってきている証しだろう。

私的な集まりだから、個人的な知り合いなのだから、と法律が入り込まないと思うのは大きな間違いで、最近では罠を仕掛けてくるライバル企業も少なくない。同業者と同席した場合は、製品価格、コスト、売上げなどに関する話は決してしないことが最低のルールである。団体活動などに参加する場合も、常に独禁法の抵触を念頭において、リスクを最小限に抑える行動を心がけなければならない。談合、共謀の容疑をかけられるような行動を取らないことが独禁法コンプライアンスの基本である。

カルテル調査に携わった経験がある大学教授は、カルテルの背景には自動車メーカーと部品メーカーの関係など日本独特の文化にも原因があると説明する。大手自動車メーカーの主要サプライヤーで構成する任意団体のような存在は、会合やゴルフなどを通じて競合他社同士で親しくなる動機を作るという点で逆に「非常に危険だ」と話す。過去には、自動車メーカのグループ会社で構成する組織があり、日本だけで活動していれば良いものを、アメリカにまで持ち込んで幹事会社の系列保険会社が自社の営業目的で月例ゴルフコンペを主催していたことがある。かなり前に廃止されたが、今思えば最も危険な組織であっただろう。他には、日本人の県人会や大学・高校同窓会という組織も海外で活動する際は注意を要することをアドバイスしておきたい。

某経済紙が公表した事案では、セラミックス製造販売会社が自動車向け排ガス浄化装置の販売をめぐり、米司法省から米独占禁止法違反(カルテル)の疑いで調査を受け、有罪を認めて罰金約6500万ドル(約78億円)を支払う司法取引に応じたと報じている。前社長(66)ら3人は免責されなかったもようで、米司法省に訴追される見通しとなった。一部上場企業の社長経験者が国際カルテルで刑事責任を問われるのは極めて異例である。同社は自動車向け排ガス浄化装置をめぐり、2002年以降、日米計3社で不正な価格操作をした疑いがもたれている。

前社長は02~07年、排ガス浄化装置を扱うセラミックス事業本部長を務めた。米司法省は前社長らの関与を認定した上で、調査に非協力的だったことなどから免責しなかったもようとしている。起訴されれば、裁判で米独禁法違反罪の10年以下の禁錮刑や100万ドル以下の罰金刑などを科される可能性がある。

次回は、欧米またアジア諸国との彼我の差【三回】を寄稿する。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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