第30回 サプライチェーン職彼我の差

欧米またアジア諸国との彼我の差【初回】

~日系企業のサプライチェーン職の強みと弱み~

以前大手自動車メーカー社長が残した「兵站が緩んでいる」発言は尤もだと思うことがある。それだけ経営戦略における兵站は重大な意味を持つのである。最近多くの事業者、また購買実務家から聞かれることは、社内における購買調達の地位が低い、である。相対的なことだと推量するが、30年近く現場にいた者としては十分に納得のいくところである。

一方で、教員となって海外で指導する内に、彼我の差(欧米では調達購買機能はキーである)を思い知らされることになる。理由は様々に挙げられるが、日系企業の購買職が努力を怠っているように思えるのは何故か。これは国内だけの問題にも見える、というのは欧米では、またアジア諸国では、購買サプライチェーン機能が非常に重視され経営からの期待も大きい。本論では、順を追って話していきたい:

≪明らかな数字による違い≫

  1. 購買社員数比率
  2. 購買カバー率

≪実態による違い≫

  1. CPOの存在
  2. ローカルコンテント法への対処

≪何となくわかる違い≫

  1. ブラックボックス現象
  2. 経営への貢献度の見える化(年次報告書に明記しよう)

1.購買社員数比率

下図1のように米国では、購買職の社員が多いことがわかる。重要な経営資源には多くのリソースを配分するのは当たり前なのだ。日本では、必ずしもそうはいかない。長く売り上げ至上主義で生き延びてきた日本経済社会では依然として販売力の強化が優先課題となっており、営業職が重視される。製造業では現場重視から生産職や技術職が多いのは理解できる。

一方で、海外の事情が大きく異なり、今後もサプライチェーン職が経営層にとって重要視される実態は日系企業人も大いに考えざるを得ないことだろう。企業経営は、ヒト・モノ・カネというが、ヒト、人材が最も貴重な資産である。企業内の様々な機能に配布する3つの経営資源の量で経営者の持つ機能重要度が判断できると考えれば、日本国内では、購買機能への人的資源の配分が誠に少ないと言わざるを得ない。経営者から見れば収益をもたらす資源が重要だと主張するだろう。米国でも最近まで購買調達機能はコストセンターと呼ばれていた。従って、学校でもプロフィットセンターへ脱皮しようという議論が、まことしやかに囁かれたものだ。今ではそういう議論は全くない。

図1:購買社員数比率

Is your supply management organization properly staffed?

Source: Cross Industry Metric Report, CAPS Research, July 2015.

As companies recognize the value of supply management they are investing in resources.

Supply management employees across all industries represent on average 1.9% of a company's employee base.  This is up slightly from 1.7% in 2014.

日本企業の購買社員数比率が気になるところだが、最近2016年10月のISM/CAPS日本研究会のアンケート調査結果では、純日系企業:0.5-1%前後、日本在外資系企業:1-2%が多かった。母数が少ないので一概には言えないが、社員へのヒヤリングでも「うちは少ない」と答えた人が多かった。さらなる質問の回答は、後段に譲る。

2.購買カバー率

もう一つの図2に記載しているカバー率という表現は、日本人には聞きなれない言葉であるが、欧米では一般化している。スペンドアナリシス(支出分析)でしばしば議論されたところの、企業の支出を効果的、効率的に経営管理、運営していこうというものだ。会社が外部に支払う製品やサービスの費用を適度に抑えると言うと理解が早いだろう。日系企業ではなかなか進んでいない領域だが、欧米各社は命運をかけて取り組んでいるところも多い。購買部署が企業の支出をどれくらい見ているかという指標であるが、欧米に比べて大きな差が見て取れる。

日本の大企業では、原材料の調達に大きなリソースを割き、その他の間接材などは各使用現場に発注を任せていたという慣習があったようだ。製造業では、直接材料を意味し、その原価を最適に維持することが最大の命題でもあった。売上原価に響くからであり、某電機メーカーでは「売上原価70を切れ」というトップの命令もあったと聞く。電器産業では、一般に売上原価率は70-80%と言われていた時代だ。近年は日本在住の外資系企業の影響、また日系企業もコンサルタント起用で指導されたこともあり漸増しているのが現状だ。

図2:購買カバー率

Managed Spend by the Supply Management Group

More and more sourceable spend is being managed by supply/procurement groups. Such growing influence means a more strategic approach, increased savings and greater protection from supplier risk.  The average % of managed spend for all companies is 82.9%.

Source: CAPS Research "Cross-Industry Report of Standard Benchmarks" published July 2015.

さて、日本企業の購買カバー率が気になるが、前述のISM/CAPS日本研究会のアンケート調査結果では、純日系企業:60-70%前後、日本在外資系企業:80-90%と出た。これも、全体的に母数が少ないので一概には言えないが、社員へのヒヤリングでも「近年、扱い範囲を増やしている」と答えた人が多かった。大きな転換点は日産自動車に降り立ったカルロスゴーン氏の手腕によるところだろう。コストカッターと呼ばれたが非常に綿密に現実を見る実業家であることは誰もが認めているところだが、日本式の「理由なき慣習の踏襲」は決して許されなかったと聞いている。

スペンドアナリシス(調達履歴分析)

過去の調達履歴データを分析し、重点品・重点調達先を選定し、過去のCR率、CR実施施策内容、コスト分析と価格の決定方法、調達先水準などの実態調査を踏まえ、調達先にとっても論理的で納得性があり、大幅なコストダウンを実現する施策を検討・選定するための分析手法。

この種の商品やサービスの購入は昔から総務部、経理部が担当していました、という理由は通用しない訳だ。何故なら理由を整然と説明できない社員が多かったからだ。昔からの慣習であったから会社は倒産の危機に陥ったのだから変えなくてはいけないのは当然の話だ。多くの会社で、この仕事は何処そこの部署、このサービス調達は別の部署というように分かれているが、理由が不明なことが多い。特に吸収合併を繰り返してきた会社に多い。自動車メーカー社長は所謂しがらみを徹底して嫌った異国人であったが、ごくまともなビジネスパースンでもあった。

現下では、多くの日系企業の間で「スペンドアナリシス」が少しずつ広まっているように見えるが、トップダウン式でないやり方では限度があり、瞬く間に元の鞘に納まる感がある。それは、実行と理想が異なり、ギャップを埋めるリーダーがいないからだ。

チェンジマネジメントという手法があるが、社内の抵抗に負ける購買部署は多い。それは次節で述べる、最高購買責任者(Chief Procurement Officer)の不在、及び経営層の意識の違いが原因である。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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