第29回 政府開発援助のあり方

バングラデシュ邦人死亡

~政府開発援助のあり方問われる~

事件の経緯

バングラデシュの首都ダッカで日本人7人を含む人質20人が殺害された飲食店襲撃テロ事件で、多くの日本人が犠牲になった。

これはヨーロッパで起きた事件ではない。アジア地域内でのテロ事件で我々日本人は驚きを隠せない。筆者も、独法)国際協力機構(JICA)の推進する途上国プロジェクトに多大な関心があり、詳細を追っているところだ。

昨年までは主にアセアン諸国を対象にしていたが、今年から南アジア、インドとパキスタン、バングラデシュが中心となっている。これらの地域で宗教の問題が現存することを忘れていたわけではない。特にバングラデシュの国民の中で、イスラム教が約90%、ヒンドゥー教が9%、その他が1%と聞いている。同国はイスラム教徒が多数派であるが、ヒンドゥー教徒の人口割合もかなり高く、両者は平和裏に共存し、また、少し以前は、仏教が大いに栄えていたため、現在も一部の地域で仏教が信仰されているようだ。どの宗教を信仰しているかという点も重要だが、それ以上に、同じベンガル民族であるという意識の方が重要視されており相互に尊重という興味深い現象がある。こういう中で起こったテロ事件は日本人にとってまさに衝撃的なものであった。

ここで今一度、JICAの同国への支援を見てみよう。

日本の支援

バングラデシュは、日本の4割ほどの国土に約1億5千万人が暮らすアジア最貧国の一つで、依然として人口の約3割が貧困層である。サイクロン、洪水、地震といった自然災害にも脆弱な国であり、気候変動による影響を非常に受けやすい国である。一方、2000年代には、年率平均6%の堅調な経済成長を続けており、その人口規模と豊富で安価な労働力により、投資先・市場としても近年注目されてきた。

JICAは、2021年までに中所得国化するというバングラデシュ政府の目標の実現を支援するため、持続可能な経済成長の実現と貧困からの脱却を目指して多くの支援をしている。例えば、経済成長支援として、運輸・電力等の社会的基盤の整備、民間部門活性化のための支援である。更に社会の様々な脆弱性に対応するため基礎教育、保健医療、農村開発、企業統治、災害対策等の分野における支援も実施中。

同国とJICAの関係は1973年の奉仕団3名の派遣に遡る。同国各地の様々な分野の事業に対し技術協力、円借款、無償資金協力、奉仕事業等を通じて支援を続けている。日本で起こった、2011年3月の東日本大震災後にバングラデシュの人々から寄せられた温かいメッセージと支援に象徴される両国の不朽の友好関係は、過去40年にわたる国際協力事業に携わって来た二国間の関係者の真摯な努力に負うところが大きい。

また、バングラデシュは、貧困削減、教育における男女平等、乳幼児死亡率の削減などが大きく進展した国の一つである。昨今、同国の経済成長の高さから有望な投資先の一つとして海外から注目を集めているのも事実だ。

つい最近では、6 月29日、同国首都ダッカにて日本との間で6件、総額1,735億3,800万円を限度とする円借款貸付契約に調印した。概要は以下の通り:

1.国際競争力強化のためのインフラ整備 -交通・電力需要への対応-

  1. 「首都ダッカ都市交通整備事業(II)」同国初の都市高速鉄道(MRT)を建設することによって、自動車やバスに代わる交通手段を提供し首都ダッカの慢性的な交通渋滞と大気汚染の解消に取り組む。
  2. 「クロスボーダー道路網整備事業(バングラデシュ)」アジアハイウェイ1号線等、アジア地域の主要都市を結ぶ経済回廊を整備するため、損傷の激しい既存橋の架け替えや国境施設の整備等に加え、ダッカ-コルカタ間で唯一陸路交通が分断されているカルナ橋の新設。
  3. 「ジャムナ鉄道専用橋建設事業(E/S)」隣国インドに繋がるアジア横断鉄道の一部に鉄道専用橋を建設しコンテナ輸送対応。
  4. 「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業(II)」より少ない石炭で高効率な発電を行うことにより温室効果ガス排出量を抑えつつ急増する電力需要を満たす電源を提供。
  5. 「省エネルギー推進融資事業」低利融資等を通じて企業や家庭に省エネルギー機材の導入を促すことによりエネルギーの利用効率の向上。

2.自然災害に対する脆弱性の克服 -仙台防災枠組を具現化した円借款事業-

  1. 「災害リスク管理能力強化事業」過去の災害で被災し復旧が不十分なインフラの本格復旧を通じた抑止・減災、災害発生時の応急対応に必要な情報伝達機器や救援用機材の整備を通じた事前準備、被災後の迅速な復旧支援のための仕組みの構築と実施を通じた復旧・復興、災害マネジメントサイクルの実践により同国政府の総合的な災害リスク管理能力の強化。

英語が全てではない現実

日本人は、海外というと必ず英語という英米の国語を持ち出してくる傾向がある。日本でさえ通じない言語がアジア諸国で通じないことを知らないくらい無知でもある。例えば、民間企業の社員が新興国や途上国へ赴任または出張する場合、当該国の国民が日常使う言語を少しでも習得するのは常識であろう。アジア内で公用語が英語の国は、シンガポール、インド、フィリピンくらいであるが、国土の狭いシンガポールはさておき、人口急増のインドやフィリピンでさえ、首都圏を離れると国民の日常会話は英語でなく、ローカルの言語だ。数か月の長期出張または駐在となると、自己防衛の意味からも当該都市圏で市民が普通に話す言語が必須となる。

今回の事件の報道では、実行犯は人質になったバングラデシュ人の男性店員に対し、ベンガル語で「心配するな。われわれは外国人と非イスラム教徒を殺しに来ただけだ」と話したと言う。少しでもベンガル語をかじっていれば、と言うのは今では無益なことだろうか。筆者もアフリカ諸国を駐在、長期出張した際に、少しでも会話を楽しむために現地の言葉をメモする習慣を持つ。会話を楽しむと言う意味は、例えば、現地国に到着した際に、真っ先に必要となるのは、税関、入国管理、両替などである。ある程度の高級官吏であれば英語を話すだろうが実務を担当する役人には望めそうもなく、手真似、身振りで示すよりはローカルの人が話す言葉が重宝されるのは当然だ。そして、そういった国の威信にかかる手続きを円滑にすればお互いに楽しく入国できるというものだ。相手の空港担当者や役人が笑顔で答えたらシメタものだと思うようにしている。

酷な言い方かも知れないが、海外に出ることは、目的が旅行、出張、駐在など、何にせよ日本人が外人になることを再認識することだ。つまり、日本国内で我々が日常で会う欧米人になってしまうと言うことだ。何故、欧米人かと言うと、アジアなどの途上国では、日本、日本人は欧米人と同じく先進的で国民が裕福だと見られているからだ。かといって欧米人のように振る舞うのでなく、同じアジア人として、現地の人と接することは意義があり、意思疎通という意味で現地の人と同じ言葉を話すことは、その国民への礼儀、また尊重になると思う。残念ながら、往々にして日本人はアジア、アフリカ人には横柄で、欧米人には一歩下がるという変な態度が見られるが、厳に慎むべきであろう。

≪参考≫

バングラデシュ人民共和国(গণপ্রজাতন্ত্রী বাংলাদেশ/Bangladesh)

南アジアにあるイスラム教徒主体の国。イギリス連邦加盟国、人口1億5,250万人、首都はダッカ。北と東西の三方はインド、南東部はミャンマーと国境を接し、南はインド洋に面する。西側で隣接するインド西ベンガル州とともにベンガル語圏に属す。1971年にパキスタンから独立。国名の「バングラデシュ」はベンガル語で「ベンガル人の国」を意味する。都市国家を除くと世界で最も人口密度が高い国で、人口数は世界第7位。ベンガル湾に注ぐ大河ガンジス川を有する。豊富な水資源から米やジュートの生産に適し、かつて「黄金のベンガル」と称された豊かな地域であったが、インフラの未整備や行政の非能率から現在では、アジアの最貧国に属する。近年は労働力の豊富さ、アジア最低水準の労働コストの低廉さに注目した、多国籍製造業、特に欧米を中心とした衣料品製造の進出が著しい。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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