第24回 北イタリア紀行~知られざるイタリアの実態~

最近、北イタリアを訪問する機会を得た。読者の皆さんは、PIGSという言葉を聞いたことがあるだろう。英語で豚を意味する、この頭字語は2008年から侮蔑的な意味を込めてイギリスおよび北米の金融報道で使われるようになった。当初は、ユーロ圏の南欧4ヶ国、ポルトガル (Portugal)、イタリア (Italy)、ギリシャ (Greece)、スペイン (Spain) の頭文字を併せて指した。

イタリアの銀行は、イタリアはポルトガルとアイルランド、ギリシャ、スペインと比べて貯蓄率と財政規律が相対的に良好なので、PIGSの「I」はイタリアではなくアイルランドであると主張している。これらユーロ圏の国々は2008年の数年前までは国によりまちまちの経済状況を呈していたが、2008年のリーマン・ショック前後から財政規律問題と経常収支問題が顕著になってきており、これがユーロの不安定要因になっているとみなされた。その上重大なことは雇用問題も抱えており、2009年11月のドバイ・ショックでも信用格付け問題で大いに揺さぶられることになった。そこで、実際のイタリア経済とはどういうものか目で見ることになった。

古くから知己のある、イタリア購買団体ADACI(アダチと読む;Associazione Italiana di Management degli Approvvigionamenti)を表敬訪問したところ、思いがけなく日本の組織との提携話が浮上した。日伊間で購買物流交流を図ろうという考えだ。因みに、同組織ADACI(アダチ)は1968年に設立され、イタリア国内の供給管理、サプライマネジメント、資材管理、物流、ファシリティマネジメントに力を入れてきた非営利団体。本部はミラノ郊外にあるが、ミラノ市内の数種の大学とも学術提携しており、グローバルなサプライマネジメントのエキスを学生に教えているという。

ついで、ミラノ大学の校舎を見学したが、ローマ時代の遺跡のような建築物が圧巻であった。旧病院(マッジョーレ)が、今や同大学となっている。出講中のフランスの大学と比べてしまうが、建物自体の外観は遺跡風で近代的な施設ではない。校内までは見なかったが、今や何処でもインターネットが普及しているためか、学生や教員の歩きスマホが数多く見られた。

このマッジョーレ病院は、1456年にフランチェスコ・スフォルツォ公爵によって設立されたという。設計したのはアントニオ・アヴェルリーノという建築家で、当時は「偉大なる館」と呼ばれるほど豪壮な建築物だったそうだ。マッジョーレ病院設立の目的は、貧困と病に苦しむ人々の救済であった。設備は、ベッドサイドに折りたたみ式のテーブルをしつらえた作りつけの戸棚があり、トイレ、浴室なども、当時の病院としてはモデルになるほどの建物であったとも聞いた。学内を歩くとフランスの大学を思い出すが、建物の旧さはフランスの比ではなく重層な建築物に歴史と重みを感じた次第である。

マッジョーレ病院

病院設立時のキリスト教の理念は現在でもマッジョーレ病院の伝統として受け継がれ、その性格は変わっていない。時代の最先端を映していた病院建物が第二次世界大戦中に空爆により大破したため、戦争終結時にミラノ大学に譲られ、ミラノ大学が1949年から修復を開始。見事に修復された建物は1958年からミラノ大学の校舎となっている。

ミラノ大学は1861年に創られた科学・文学アカデミーを母体として1924年に創設された。当時の学部は、法学部、芸術・哲学部、医学部、物理化学・数学・自然科学部の4学部で構成され、1928年にはイタリア国内でナポリ、ローマ、パドヴァに次ぐ4番目の規模の大学に成長した。

学生数が90,000名となり、マンモス大学になったため、1993年にはいくつかの学部をまとめて移転することになる。1998年には第二ミラノ大学が設立され、経済学部、法学部、第二医学部、数学・自然科学部、心理学部、社会学部などが所属することになった。1998~99年には、元のミラノ大学は8学部、25コース(学部)を備え、現在学生数73,000名、教員数2,073名を擁している。

一般にイタリアは南北で大きな違いがあると言われるが、実地に観察してみると北は工業都市、南は観光都市という様相だ。イタリア人の間でも「南北問題」が存在し、それはイタリアが統一されて建国した1860年から存在している問題だ。イタリア庶民からも簡単に言うと、北部は裕福、南部は貧乏となる。北部はずっと先進地域であり続け、南部は後進地域に留まったままという。要するに同国の南北問題は格差問題を指すとのことだ。

有力な都市は北部に(ミラノ・トリノ・ジェノバ・ベネツィア・ボローニャ・フィレンツェなど)集中し、また小さいが活力のある町は北部に集中、例えば、ローマ・ナポリ・パレルモが挙げられる。経済面から見ると、南のローマもナポリも人口こそ多いが、主産業や工業が殆どなく、観光・サービス業でもっている。パレルモもシチリア最大の都市だが観光のみに頼る。とは言っても、北部の都市ミラノやトリノは、農業・商工業・エネルギー産業・ハイテク産業がる一方で、観光に関しても南部都市に負けていない。

失業者数で言うと、北部が8%前後で、南部16-18%となる。教育レベル(学卒など)では、南部は北部の半分という。先のイタリア購買協会の幹部もほぼ北部の人で、南部をバカにし、一方で南部の人は北部の人を忌み嫌う傾向があると聞いた。

上の写真は筆者が親しくするイタリアのコンサルティング会社ミラノ支社を訪問して代表としばし会談したものだが、意外にも多くの日系の会社(総合商社、アパレル、生活用品など)と取引しているという。社名は伏せるがミラノの商工会議所にも連ねている大手企業だが、人事や総務、年金や社員の雇用政策について多くの課題があり現地の顧問に相談が寄せられていると聞く。

日系の会社は国内ではすべての業務や課題を社員で解決したり、賄おうとするも、海外ではリソースとエネルギー不足でコンサルタントを起用することが多いと聞いていたので、さもありなんという訳だ。ミラノ在のコンサル会社は英米系外資も多い中で、写真中央の代表者は中々のやり手で10数年前に一人でパソコンと電話だけで立ち上げたが今では60名以上の社員を抱えて大忙しと聞いた。マスコミではイタリア事情はほぼ観光メインで紹介されるが、前述のとおり北イタリアは欧州の中核に位置すると同時に経済面でも大いに先を行っているという印象を受けた。

筆者は、サラリーマン時代の海外出張と違い、特に結果を出さなくとも良いわけで、予定した旅程を無事にこなすことが重要となる。旅行代理店の企画ツアーでなく個人の場合、旅程は途中で変更可能なため、臨機応変に交通手段、目的地、時間帯(平日・週末/日中・夜中)を選択できる利点もある。「君子危うきに近寄らず」のごとく普通に考えて危険な場所に行くのは避けた方が良い、とわかっていても外国という解放された雰囲気から敢えて危なそうな場所に近寄る人もいるが、経験上、危険を察知して止める脳神経は敏感に働いた。

本コラムの読者用に注意点を纏めてみた:

1. 歩きタバコの常態化

ミラノを初め、都会の歩きたばこの多さにびっくり。特に女性、老若問わず、煙草を離さず持ち歩く姿は所謂、恰好いいが、自分が歩道を汚していることの意識はないようだ。アメリカ人が異常に煙草嫌いになり、日本人が追随しているが、東南アジア諸国では依然タバコが普通に吸われている。日本でも女性の喫煙はしばしば見られることもあるが、イタリアでは異常、過剰に思えた。

2. 携帯電話

イタリア人などラテン系の話好きなことは分かっているが、携帯の普及から電車内で四六時中、話しているのは如何なものか。電車やバスの車掌も黙認というか、許しているというか、日本のJRのような注意アナウンスはない。車中でも乗って降りるまで携帯を離さなかった女性を何人も見た。

3. 乞食とミサンガの売りつけ

所謂、歩道に座している物乞いは減ったようだが、冬の寒い気温のせいで、隠れていたのか、パリに比べてずいぶん少ない。駅構内には相変わらずアラブ風やジプシー姿の老女が散見された。ミサンガの強制的な売りつけはパリを思い出すが、黒人は平気で実行している。イタリア警察もテロ警備という名目で町中を監視しているため少しは減ったようだが、彼等も生きるために必死なのだろう。グループで固まって行動している。アフリカ系の黒人はイスラム教徒とは思われないのか警官も黙認しているようだ。

4. タクシー清潔

ミラノの駅前タクシーは真っ白で清潔な印象、英国とまではいかないが、真面目そうな運転手と見掛けた。少なくとも米仏の外国人タクシーとは大きく異なる。今回は乗る機会がなく電車と地下鉄で移動したが、業務出張の場合は必要であったことを思い出していた。

5. エスカレータの整備、維持管理

フランスでは常にと言っていいほど、上下のエスカレータの内どちらかが故障中のため一方で歩く必要があったが、イタリア三都市ではそういう事態に全く遭遇しなかった。日本では機械設備の維持管理が行き届いていて当然と思いがちだが、海外では一変して事情が異なる。観光客は何処でも一度は自国の状態と比べてみるものだが、そこかしこで聞こえてくる日本人客の話でも「日本じゃ考えられないね。やっぱ日本がいいわ。」など文化比較論を聞いていて面白い。

6. トラムが快適;環境重視

欧州はここ数年、特にトラムという路面電車が普及しだしたようだ。ヨーロッパでは各国でトラムが運行され稠密な路線網を持つ国・都市も多い。ベニスを除いてミラノ、フィレンツェの大都会では鉄道駅に隣接してトラムとバスが走っている。但し、海外の観光客には切符の買い方や路線図入手が難しかったが今や全世界で共通のスマホというネット手段があるため問題はないようだ。

ここでもトラムの一部はライトレールとして規格の改良が施され、ドイツではシュタットバーン、ベルギーではプレメトロとも呼ばれる。イギリス、フランスでは、地下鉄やバスさらに自家用車の普及に伴い、路面電車は第2次世界大戦後、削減・廃止がなされてきたが、近年、地球環境、都市環境などの観点からの再評価の動きに伴い路線の復活・新設が行われているそうだ。

旧東欧共産圏では、稠密な路面電車網を有する都市が多い。1960年代までは貨物輸送にも用いられていたが、その後、貨物輸送はほとんど消滅した。路面電車がトロリーバスによって代替された都市も見られる。

7. 地下鉄の清潔さ

トラムやバスでは市街が見渡せるがメトロはそうはいかないし、閉じ込められた気がする人も多い。ミラノの地下鉄は予想外に清潔で、真冬のためか乗客も少なく快適であった。自分がパリやロンドンでは必ずバスを進めるのは治安のせいからだ。急ぐたびでもないのだからゆっくりバスや市電に乗って街路や人々を見るのも結構面白い経験だ。出張していた頃は中々こうはいかなかった。

8. 鉄道での移動

欧州では、フランスに限らず、イタリアでもFS(Ferrovia dello Stato:国有鉄道)の鉄道網が充実している。一般的には都市間移動はFSが有利で便利だ。主要都市を移動するのならES(ユーロスター・イタリア)やIC(インターシティ)、EC(ユーロシティ)といった高速列車が日に何本も運行しており都市の中心部から中心部を結んでいる。専用路盤を時速300kmで駆け抜けるESの乗り心地は良い。また車窓に流れる景色もすばらしい。

9. イタリア老人仲間の会話

驚くことに日中から老人がグループでやってきてカフェで話し込んでいる。しかも男だけの老人で数時間話す内容は何だろうか。年金生活者だと思われるが、昔ながらのカフェに集まるのが習性なのか、いかにも楽しそうに話す。冬場は夕刻から寒くなるので外に出ないからか、酒なしで話し合っている風景は日本ではあまり見られないかも知れない。

10. 南イタリアの現実

マフィア(Mafia)という言葉を聞いた人は多いだろう。しかし、その実態は日本ではあまり知られていない。これはイタリアのシチリア島を起源とする組織犯罪集団であり、同組織は19世紀から恐喝や暴力により勢力を拡大させ、1992年段階で186グループ・約4000人の構成員がいるとされる恐ろしい団体。

マフィアの一部は、19世紀末より20世紀初頭に米国に移住、移民し、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市部を中心に勢力を拡大した。マフィアと一口に言うのは間違いで、所謂「マフィア」というのはシチリア島を拠点とする勢力グループのことらしい。

イタリアでは恐らく政府より警察より何よりマフィアの権力が強いと思われている。行政とマフィアは一心同体なのか。金融関係はもちろん、建設業、公共事業、ゴミや廃棄物処理関係、農業、日曜の市場の屋台の場所から商店街の店の権利に至るまで、恐らくマフィアが関わっていない業務は存在しないようだ。北イタリアは少し平穏だが、南の方に行くと大っぴらに荒れているらしい。

本文の内容を今後、北イタリア観光やビジネス出張の際に参考にして頂ければ幸いである。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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