第23回 九州を襲った地震~東日本大震災の経験が生かされない理由~

東日本大震災以降、サプライチェーンの強化に動いてきた産業界が再び試練に見舞われている。大手自動車会社は熊本地震の影響で部品供給が滞り、稼働を停止する工場を全国に広げるという。小売りや外食産業でも輸送網の寸断で一部の店舗の閉鎖が続いている。如何にして東北大地震の教訓を生かせるか、多くの企業は正念場を迎えていると言えるだろう。

5年前の東日本大震災で大規模な減産を強いられた教訓を生かして、大手自動車メーカーは、複数の部品メーカーへの発注や在庫の積み増し要請などサプライチェーンの強化に取り組んできたのは事実だ。自動車向け半導体を生産する会社は、生産停止が長引けば別工場での代替生産を始めることを検討し始めた。

以下が当面わかった、震災対策を検討中の企業だ:

  • 導体製造装置大手のS社は、震源に近い熊本県益城町の工場を今月から本格稼働させ、ライフサイエンス機器用部品などの生産を始めた。
  • 計測機器大手は半導体製造装置部品のグループ工場を益城町の東隣の西原村に設けている。
  • 電子部品大手によると福岡県広川町や宮崎市の半導体工場に被害はないという。
  • 熊本市にある自動車部品メーカーの主力工場が14日の地震直後から操業を止め、復旧のめどが立っていない。同社のドアやエンジンの部品は、系列外の自動車メーカー向けのものもある。
  • 岡山県倉敷市にある自動車工場も軽自動車などの生産を18日に減らし19日に止める予定だ。
  • 半導体大手で自動車用半導体などをつくる川尻工場(熊本市)では危険な薬液やガスを使う製造設備の点検が遅れ再開のめどが立たない。

今回の熊本地震で感じたことは二点ある。

一つは、当然のことだが、地震予知に限界があること。今回は熊本県内を走る布田川と日奈久断層帯断層が部分的に動いたことが原因と見られるが、政府地震調査研究推進本部の30年以内の地震発生確率からも、それほど動く可能性が高い断層とは言えない。他の様々な地震関連サービスでも今回の地震をまともに予測できたとは言えない。勿論、災害予知を完全否定するわけではないが、全国どこでも、いつ大きな地震が起きてもおかしくない、そして常に備えるしかないということ。

二つ目は、行政からの情報発表が遅かったこと。特に地方自治体の多くは地震があったことすら発表できなかった。常時、適切に行動できるように日ごろから避難先を把握しておくとともに必要な情報の入手方法を考えておくべきと改めて感じた。

「BCPに取り組みたいけど、ノウハウも時間もない」と言う企業をサポートするのと、「そもそもBCPのような面倒なことはやりたくない」と言う企業に取り組ませるのでは、まったく目的も手法も変わる。世間では、様々なBCPのアンケートが公表され、その数字だけを見れば取り組みは随分増えている印象を受けるが、本当にBCPを必要と思っているのか、本気なのか、経営者の本音を聞いてみたいものだ。

欧米でもBCPは盛んに議論されているが、いずれも避難訓練のような実地の運動は珍しい。確かに毎年9月1日の防災の日には都庁が積極的に引率するが、これは確かに効き目がある。防災の日は日本の記念日であり、政府・地方公共団体等関係諸機関をはじめ、広く国民が台風高潮、津波、地震等の災害についての認識を深め、これに対処する心構えを準備するとしており、同日を中心として防災思想の普及、功労者の表彰、防災訓練等これにふさわしい行事が実施されることになっている。

また、「防災の日」を含む1週間を防災週間として、様々な国民運動が行われるとあるが、どうしてもマンネリ化が否めない。少し歴史を紐解くと「防災の日」は、1960年(昭和35年)に、内閣の閣議了解により制定されたものだ。この9月1日という日付は、1923年9月1日に発生した関東大震災にちなんだもので、例年8月31日〜9月1日付近は、台風の襲来が多いとされる二百十日にあたり、災害への備えを怠らないようにとの戒めもある。実際に制定前年の1959年9月26日には上陸した伊勢湾台風が史上まれにみる被害をもたらし、他に室戸台風による被害もあった。

ここで提案したい。例えば3月11日や4月14日を避難訓練の日と定めてはどうか。日ごろの訓練の大切さがわかるというものだ。今回の被災者の弁でも、このような大きな地震は予測しておらず、もっと訓練をしておれば良かった、と聞く。訓練というのは、単純に言うと、何処にどうやって何を持って逃げるかである。

例えば、飛行機事故での訓練は、乗客には施せないが、乗務員は必死でこなしている。実際には乗客にもやらせるべきだ。飛行機の安全神話は浸透しているが、日本列島内にこれだけ地震が起こると安全神話は通じない。日ごろの訓練と簡単に言うが、企業にとっては一つの投資である。投資対効果の判断が経営者に求められるが、リターンは利益でなく安全であることに異論は全くないであろう。

今一度、避難訓練について確認してみよう。避難訓練は、個人または集団で行われる災害、犯罪、戦争時における攻撃を想定した避難する場合の訓練のこと。避難訓練は、通常、避難経路を覚え、災害時のパニック状態を抑制し、いざという時の手順を覚えるために行われる訓練とされている。その通りであるが、実践には見えないヒト・モノ・カネが発生する。これがネックとなり中小企業経営者は躊躇する。2011年の「東日本大震災後のサプライチェーン寸断への対応」社長100人アンケート結果でも「特に対応は変えない」という回答が第3位に入っている。

社長・経営者の回答

%

1

部材などの調達先企業を海外で増やす

25

2

部材などの調達先地域を国内で分散させる

20

3

特に対応は変えない

19

4

調達部品などのデータベース拡充

19

5

部材などの調達先企業を国内で増やす

17

6

調達先企業を災害時などに支援する体制強化

8

7

グループ内で調達できる部材などを増やす

4

5年後の今では状況は異なると思うが、インタビューなどを試みると、まだまだBCPが浸透していない印象を持つ。熊本に工場を持つ経営者は今どう思っているだろうか。もはや先送りはできない事象であり、費用対効果を問う時代でもなくなった。

中々理解してもらえないが、実地の避難訓練の良い所は普段気づかないことに、改めて気づく点にある。災害時は皆慌てているもので訓練して初めてわかることが多いのである。以下に米国で実施されている火災時の避難訓練の概要を挙げておく。今回の災害とは事情は異なるが、今一度訓練の重要性を見つめる一手となれば幸いである。

火災訓練: fire drill

A fire drill is a method of practicing how a building would be evacuated in the event of a fire or other emergency. Usually, the building's existing fire alarm system is activated and the building is evacuated as if the emergency had occurred.

Generally, the time it takes to evacuate is measured to ensure that it occurs within a reasonable length of time, and problems with the emergency system or evacuation procedures are identified to be remedied.

The purpose of fire drills in schools is so that everyone in the building is aware of how to exit the building in the quickest, easiest and safest way possible if a fire, smoke, carbon monoxide or other emergency did occur and will help staff and students familiarize with the sound of the fire alarm.

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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