第22回 震災時のサプライチェーン継続計画の実態

大震災から5年を経て

~震災時のサプライチェーン継続計画の実態~

1.国内外のサプライチェーン(供給連鎖)を脅かす自然災害

東日本大震災から5年が経過した。多くのマスコミで震災特集が組まれ、あの日の悲劇を忘れないと誓っている姿が印象的だ。

地方自治体、民間企業のみならず産業全体を脅かす自然災害に対する意識が、これまでの阪神淡路大震災、中越沖地震、さらに5年前の東日本大震災を日本人が経験したことで強くなったようだ。これは、製造業だけでなく流通業、物流などのサービス産業全体にも影響する事態であり、いつ起こるかわからないというリスクを抱えているため、急遽大きな経営課題となってきた。日本の製造業各社では機械関連産業を中心にサプライチェーンマネジメント(SCM)に基づくビジネスモデルが構築されているが、ジャストインタイム(JIT)の進化により、在庫の極小化を図るSCMは、災害や事故等の発生時には、その負の影響を増幅する可能性があるとの指摘もある。一方、在庫の上積みではなく生産能力の冗長性によって負の影響を最少にとどめるといった逆の見方もある。

5年前の東日本大震災では、多くの製造業において生産設備が損害を受け、業績悪化を余儀なくされた企業も少なくなかったが、その際に注目されたのが、企業における事業継続計画(BCP)であった。

2.製造業におけるBCP(Business Continuity Planning) の概念整理

BCPは事業継続計画と訳されることが多い。不測の事態が発生し通常業務が中断した場合でも、できる限り短期間で重要な業務を再開させるための経営戦略である。この内容は従来の危機管理に手を加えたような初歩的なものから、見直しなどを通じて現場に浸透しているレベルのものまで様々であるが、従来の危機管理マニュアル程度のものとの大きな違いは、緊急時における業務の優先度が明確に定められ、企業経営と連動している点である。また、特に米国では単なる自然災害にとどまらず、テロ事件などの外的リスクにも対応した計画であることが際立っている。企業の事業リスクを脅かすものとして、地震、台風などの自然災害、火災や停電などの事故災害、法改正、政変等の政治的環境変化、鳥インフルエンザなど深刻な疫病の発生、テロリストによる物理的破壊事件、システム障害やウイルス、ハッキングなどのサイバーテロによる被害、さらに挙げられるのは、M&Aや事業統合によるグローバルを基礎とした事業のビジネスプロセスの変化、それにともなう組織改変などが含まれる。つまり、今日では、従来問題視してきた外的リスク要因があるとともに、組織内部のリスク要因も存在していることが計画をさらに複雑化させていることである。

近年、BCPの意味と意義が、企業の業種・業態を問わず認識されだしたのは、CSR(企業の社会的責任)論が浮上してきたからと唱える人もいる。つまり、災害やテロ事件に巻込まれた企業が、それによって通常の事業を中断した場合、被害者では済まなくなったという意味である。場合によっては、間接的な加害者にもなりうるのは、その企業が社会的信用を失い、顧客や利害関係者、提携相手、さらに地域社会に多大な迷惑をかけるからである。現代のように相互に深く結びついたネットワーク社会では、企業間の連携が深ければ深いほど、逆波及力もそれだけ大きいわけである。同時に、自社が他社の事故や事件の影響を受けて、損害を受ける可能性も十分あるわけである。この様な多層的で複雑な相互影響構造の中では、迅速な原因追求や根本的な解決策の策定も日増しに難しくなってきている。

3.調達の継続計画の実態

上述の通り東日本大震災は日本のみならず世界中に甚大な被害をもたらした。日本の持つモノづくりパワー(日本の電子・機械部品が高品質で信頼性の高いもので世界が期待している)が世界に証明された一方で、日本の産業なしでは世界の産業が立ち行かなくなる現実を露呈したのも事実である。同時に日本に依存していては世界が危ないことに気づき日本離れも加速しつつある。逆に言うと、この震災で日本の経営者は、サプライチェーン、つまり供給網の寸断が如何に企業経営に痛手となるかを思い知った。サプライチェーンの上流を守り、円滑な仕入れを安定化させるのは調達部門の仕事であるが、全社を挙げて支援することの重要性が社内で共有されたと考えることもできる。戦後から経済成長を確実に進めてきた日本経済は原材料や資材がお金さえ払えば当たり前のように入ってくる長い経験から、その逆(入ってこない)は許される状況ではなかった。自然災害は不可抗力という言葉を使えば何となく許される環境にもあったようだ。

しかし、リスクを取る経営姿勢に変わってきた頃から危機管理はリスクマネジメント(RM)という表現に変わり、昭和40年代後半から日本でもRMの専門書が企業経営という視点から相次いで出版されてきた。不可抗力であっても予期し被害を最小限に食い止め、最小の時間で復旧する形に変わってきたのである。それは現在にも通じるが、実は、このリスク管理の概念は、顧客志向の多様化・複雑化とグローバル化、製品ライフサイクルの短縮化、地球環境保護、諸外国を見渡すと、上図のように政変、海上事故・海賊出没、さらに企業が問われる社会的責任といった現代の経営課題とも大いに関連するのである。自然災害を単なる不可抗力として逃げるのではなく、自らサプライチェーンを防御・防衛し、自社の顧客に迷惑をかけず、満足してもらうという姿勢が本来のリスクを包含した社会的責任企業体なのである。

4.想定外の対策も必要

東日本大震災のような想定外の事故には、従来の発想でなく、それこそ想定外の処方箋が必要だろう。それは、旧来の発想の転換、つまり、サプライチェーン上のイノベーションを起こすことに他ならない。さらに企業の社会的責任(CSR)としての顧客への供給責任を考える時、調達継続計画の重要性が肝要となる。東日本大震災では、実に多くの製造業、部品メーカーが被災したため当然入ってくるべき原材料や部材が急停止した。この時、欧米各社の情報網は日本企業より数段上のものがあり人海戦術で現地の生の情報と状況を収集した企業もある。その中でサプライチェーンの上流における部材等の安定調達・仕入れという視点から調査・研究した結果を報告する。この資材調達の継続性を調査する主旨は言うまでもなく、サプライチェーン・物流・調達の実務者が実行面でどうすれば円滑に継続的に安定した調達を続けることができるか、すなわちSCP (Supply Continuity Planning)を具現化することである。

戦略購買を研究するチームでは、次の通り6つの視点から調達継続の切り口を調査した。

  1. サプライヤー(複数購買)
  2. 代替品
  3. 内製
  4. 物流
  5. 在庫
  6. レジリエンス(回復力)

経営者に対して調達継続計画(SCP)を提案するためには、調達専門職また実務者が現実面で経営と事業継続に貢献できるかを正面から調査、分析する必要がある。これら6つの視点は調達経営の基本課題でもある。課題とはそういうもので、多くの経営者がいとも簡単に述べる事柄を現実面からとらえている。筆者の主宰する研究会でも「現場の方がより正しい判断をする」という声が多かった。つまり、現場が常に意識して社内で発言していたものだが、BCPの中でも実現しなかったものだ。なぜか。十分なる経営資源が欠如していたからだ。ヒト・モノ・カネ・ジョウホウという企業にとって最大のリソースがすべてに関係し、実現には時間がかかる。本論では多くのBCPの解説書や手引書が書いている手順、マニュアル作成法、災害避難訓練などと違い、現実にサプライチェーン、とくに原材料や資機材の入荷、仕入れを中心に企業は如何にして経営と生産を継続することができるのか、を説きたい。現場の意見、要望を聞き入れ、経営判断に取り入れないと、企業の存続すら危ぶまれることを再認識してほしい。

結論から言うと、SCP実現には、前述した6視点を基礎に各対策を再検討することを提案するが、これらは簡単に言えば、仕入れや調達の基本に返ることに他ならない。

例えば、サプライヤーやサプライチェーンの複線化などは、いわば購買職の基本であろう。十数年前に大手自動車メーカに降り立ったフランスの自動車製造会社副社長(当時)が言い放ったことが思い出される。同氏の各種の再生の処方箋の中で「取引サプライヤーの数を半減しろ」である。鉄鋼または鋼材は大手鉄鋼メーカー1社購買としよう、という一言で鉄鋼メーカー2社が合併せざるを得なくなり、J社が生まれたことはあまりにも有名である。当時これは、ど素人の発想と私には思えた。前節の6視点も実は素人の発想を転換するところから課題解決が可能となるのである。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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