第21回 海外M&A成功のカギを握る調達サプライマネジメント

~グローバル戦略なき調達はM&Aを失敗に追い込む~

昨今の日本企業による巨額の海外企業買収が過去になく増加を見せている。日本政府の成長戦略にも位置づけられて謂わばM&Aブームが起きているとも言えよう。

M&Aの魅力は、例えば、優良な欧米企業買収によって

  1. 時間を買う
  2. 市場占有率を獲得する
  3. 相乗効果の創出
  4. 有益な人材の迅速な獲得

という成果から大きく業績を伸ばすことができることである。

当然ながら逆もある。

  1. 現地のマネジメントと相性が合わない
  2. 想定した買収効果の実現性に疑義が生じる
  3. 買収された側の優秀な幹部社員が辞めていく

などである。

ここでは、実際のM&A事例からサプライチェーンに絞ってみたうえで、なぜ日本企業の海外M&Aが各地で失敗しているのかについて考察する。

日本の場合1980年代のバブル期や2000年ごろのネットバブル期に続いて、2008年ごろから第三次海外買収ブームが起きているが、これまで過去の大型海外買収を見ると失敗例が多いのがわかる。

古くは石油類の精製・販売会社が1988年に米電解銅箔事業大手を約14億ドルで買収したが、わずか6年後に同社を清算して約900億円の特損を計上した事例が挙げられる。

  1. 買収が決まった途端、多くの優秀な米国人社員が辞めてしまった
  2. 原材料・資材調達・物流職の幹部社員が転職したこと
  3. 生産施設、設備は残っても、材料が入荷しないため操業不可となったこと
  4. 欧米では、基本的に担当者間の業務引き継ぎが行われないのが一般的である
  5. サプライヤー企業も離散した

製造会社であれば、サプライチェーンが回らなくなると破たんするのは目に見えているが、当時の日本企業は仲介者(主に銀行)の指示通りに動くが、Due diligence買収監査を軽視したり実行能力に欠ける企業が多かったことも原因の一つだった。仲介者にはそれなりのフィーが入ってくるので業務として実行し、できれば早く決めたい。いわば婚姻の仲人と同じようなもので双方に良いことを言って双方を喜ばせ、結びつけるのである。しかし実際に買収して操業を担うのは、買い手企業であり仲介者は締結後去っていくのは当たり前だ。販売後の製品のように、ここにはアフターケアという重大な事象は存在しない。

買収が完了し、現実に操業を担う段階では買収された会社の担当者が辞めてしまったために引き継ぎがなく、異国の地で独りぼっちになった日本人も多い。仲介した銀行は知らんぷりで、残念を繰り返すのみ。バリューチェーンの上流にあたる研究開発、設計は日本国内でも可能だが、原材料の仕入れ購買調達は、操業の重要な一環であり瞬く間に機械設備の運転は中断する。例によって誰も責任を取らない。

企業買収は秘密裏に進められることが多い。従って、社内では社長、事業部担当役員、財務、人事、法務が中心となり、買収のマスコミ公表まで極秘案件となる。ここでは、サプライチェーンを担当する部署や社員など蚊帳の外であるのは実に悲しい。米国では「企業を買う」ことも購買調達の仕事の一つになっているが、日本では全く違う。サプライチェーン職が、秘密調査、Due diligenceには加われないどころか相手の社内情報さえも届かない。日本国内では、社内にCPO最高購買責任者が存在しないこともあるが、製造業のサプライチェーンがわかっていない幹部社員、特に経営者に近い取り巻き幹部が多過ぎることも事実である。

買収先の外国企業のサプライチェーン担当者が退職するのは仕方がないとしても、買収監査(デューディリジェンス)の段階あるいは、その前の時点でも良いので、製造や調達、物流担当社員同士が交信、意思疎通、会話しないことには何も始まらない。欧米社員は転職に慣れていることからアジア人であろうと誰が乗っ取りに来ようが関係なく案外ドライに応じてくれる。会社は人間が運営管理し動かしているのだから、話し合って通じないわけがない。まして、同じ職務の人間であれば買収後の課題も話し合えるわけだ。あまりに買収を隠そうとするばかりに重大な事実まで伝わってこないことになる。

Due diligence 買収監査 デューディリジェンス

企業を買収する際に事前に詳細な調査を行うこと。ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力のことで、転じて投資やM&Aなどの取引に際して行われる、対象企業や不動産・金融商品などの資産の調査活動である。

一つ逆の意味で、2010年の日本経済新聞記事の一部を抜粋して、紹介することで、買収される方に回った某日本企業の悲劇を味わってみたい。

※NHKテレビ・スペシャル番組で「中国人ボスがやって来た~密着買収された日本企業の400日」なるドキュメンタリーが放送された。その番組は、2010年5月中国の大手繊維メーカーに、株式の大半を引き受けてもらった日系某社のその後を描いた内容だった。

番組の内容は多くの人に衝撃を与えた。一つは、訳のわからない中国企業に買収されて、無理な要求をされて気の毒だというもの。もう一つは、この期に及んで日本の名門アパレルメーカーのプライドを捨てられず、中国市場に入り込めない同社日本人社員のお粗末さに落胆したというものだった。企業の経営者は社員も含めて株主の意向を考えて経営をしなくてはならない。41%を保有している中国企業の意見に従うのは当然で、大株主が自分の欲する方向に会社を動かそうとすることに異論はないはず。買収された某日系企業の経営手法や中国に派遣されている日本人管理職にそうした意識が欠けているように感じたことだ。

倒産してもおかしくない企業に資金投入をして救ったに中国企業対し、その社長の方針を理解しようとせず、日本のやり方で市場開拓をすることにこだわり続けた。何カ月たっても成果の上がらない日本人スタッフにしびれを切らせた買収側の中国人社長が、中国人コンサルタントを使ったりして現地に合ったやり方をとるように命じても、「日本人幹部社員はファッションビジネスが分かっていない」と言って自分たちのやり方を変えようとしない。また同社東京本社も頑なに日本のやり方に拘わっていた。

一般に「成功神話は復讐する」と言われるが、その意味は、ある経営手法、または製品で成功した企業はそのやり方にとらわれ、それが通用しなくなっても方針転換できずに衰退するという警告だ。この日系メーカーは何十年も成功していないのに、自分たちの幻の成功神話から抜けだせないでいる。その上、外資の子会社になった自分たちの立場も理解できずに、中国のやり方を命じられることに被害者意識を持ったりする。国際的なビジネス感覚からすれば、こうした日本人経営者や社員の方が井の中の蛙で世界を知らない田舎者という外ない。

5年前のことであるが、海外M&Aのケースは、寧ろ買収後の融合が非常に難しいと言える。簡単に整理すると、次の3つの疑問が湧く:

  1. 過去の成功した経営手法を変更して経営効率を上げることができるか。
  2. 買収後、日本企業がどのように商標、ロゴマーク、品質感などを維持していくか。
  3. 両社の人間同士の信頼感を如何に醸成するか。

買収された日本側は、中国企業に買収されたからといって、ブランドイメージを損ねることなく、中国の経営者に伝えていく必要がある、また中国側もその努力をする必要がある。両者が目標を一致させて、日本・中国という枠を越えていかないと、それぞれ買収した意味がないのだ。

概して日本人の多くは日本のマーケットがそれなりの規模があり、洗練されているので、日本のやり方や考え方がどこにでも通用すると考えがちだ。特に誤解しやすいのは東京中心の考え方で、東京がナンバーワンだからなんでも東京中心で良いという発想を、他の国に対しても持ってしまうこと。中国なら北京、米国ならニューヨークといった思い込みで、マーケットも文化も教育もそこが中心と考えてしまうことが最も危険なことだ。12億人の人口を抱える中国には、北京以外にも巨大で十分な需要がある都市が多く出てきており、ファッションで言えば全く北京中心ではない。米国でも大企業の本社は各地に散らばっていて、日本のように東京一辺倒ではない。従って、北京に最初の店舗を作り、そこから地方に出てゆくといった某日系会社の戦略は合理性があるとは言えない。

またアパレルの製品コンセプトを過去の栄光に浸り、過度に大切にするあまり、現地のニーズにあったデザインを採用しようとしない姿勢も顧客・消費者中心という基本からはずれている。当時、中国が遅れていると賜った日本人社員の感覚は間違いでないとしても中国の年や地方の実情に合わせた戦略を取るべきで日本のやり方を教えてやるといった姿勢では成功しない。

こうした基本的なところをしっかりつかんでいないと、事例のような失敗をする企業はこれからも続くと思われる。

買収先のサプライチェーンに話を戻すと、担当者が消えたからといって驚くことはないが、買収前の時間をどう使うかが重要である。M&Aは突然降ってわいた現象ではなく事前の準備がある。デューディリジェンスで最も重要なことは「ヒト・モノ・カネ」という三大経営資源の受け渡しであり、これらは人間が扱っているものゆえ、両社の人間が任務と責任を分担し確認し合って円滑に移行できるように話し合うものだ。相手がいなくなるという前提と発想で進めないと躓くのは見えている。海外企業の買収では相手も期待するところがあるため、信頼関係がベースとなるが、それを築くのは上記の三大資源につて徹底的に話し合い理解することだ。供給連鎖の上流から下流まで流れる原材料、資機材、物流経路、そして静脈物流と言われる使用済み製品や廃棄物の輸送まで相互確認し、体で覚えることが前提条件であり、M&Aの成功要因の一つなのである。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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