第18回 納期遵守で信頼の高い日本のサプライヤーの世界評価

横浜マンション工事偽装事件

横浜市都筑区のマンションが傾いた問題では、2次下請けの業者によって、建物を固定する杭打ち工事データが改ざんされたようだ。建物の安全性に致命的な影響を与えかねない不正に対し同業者は怒りと驚きが出ている。建築業界に詳しい専門家は、工期重視の慣行や建設ラッシュなどが背景にあると指摘した。不正の背景に、工期を絶対視する業界の慣行を挙げる声もある。

大手不動産グループが横浜市で販売したマンションが傾いた問題で、建物と地盤を固定する杭打ち工事のデータ改ざんが明らかになった。なぜ虚偽データの使用が見過ごされたのか。下請けへ段階的に仕事を発注し、業務が細分化された業界特有の多層構造が、チェック体制を甘くした可能性がある。

今回の杭打ち工事は、1次下請けが半導体製造装置を主力とするH社。2次下請けがA社だった。大手不動産グループは、H社に工事の進捗状況の確認や、安全の確保を任せていた。同社が間に入ったことも、大手不動産グループのA社に対するチェックの目を甘くした可能性がある。不正が発覚した杭工事の1次下請けだった同社の経営幹部が公に謝罪したのは初めてだ。

半導体製造装置が主力のH社はなぜマンションの杭打ち工事に関わったのか。H社は2001年、大手電機メーカのグループ事業再編で発足。前身の1つは工業資材商社だった。傾いたマンションの杭工事を手掛けたA社とは50年来の取引があり建材販売の「代理店」を担うとともに元請けの建設会社から杭工事を請け負う役回りも果たしてきた。今回の1次下請けとしてのH社の役割は「工事の進捗確認や現場の安全確保」だった。問題があった場合の責任は2次下請けが負うとの契約も結んでいたという。技術的な知見はなくA社の担当者が改ざんした工事データの信ぴょう性は判断できなかったと同社幹部は言う。

H社の建材販売関連の売上高は年間10億円程度。連結売上高全体に比べれば、1%にも満たない「枝葉」だ。ただ、対応を誤れば、企業イメージを大きく毀損するリスクは十分にある。

建設業界では、元請けや1次下請けの責任も重いというのが共通認識だ。A社に丸投げしていた認識はないというH社も品質管理への関与などが求められる現行の建設業法に照らせば、対応が十分だったとはいえない。国土交通省も注視するなか、早期に事実関係を明らかにすることが求められている。

元請け側の責任、指摘も挙げられる一方で、工期に追われる下請け業者の事情を指摘する者もいる。杭打ち工事が実施されたのは2005年12月~06年2月で、不動産価格が上昇し「ミニバブル」とも言われた07年の少し前で建設需要は高かった。ある建設関係者は、多くの下請け業者が感じている工期厳守のプレッシャーもあったのではないかと話している。

欧米との彼我の差

一般のビジネスや商取引では売り手と買い手が存在するが、ここでも日本独特の商慣習が依然として残っている。それは、売り手優位である。古今東西変わらないという人もいるが日本では益々エスカレートする傾向が見える。日本では、一般消費者やデパート内の顧客でも同じで、黙って店に入り、黙って出ていく。この現象は恐らく日本だけだろう。海外では、店側、即ち売り手にとって、この買い手の姿勢は大変失礼な行動と映る。買い手である消費者は、買ってやるんだから態度が横柄なのは当たり前だ、と嘯くが、海外では、欧米では全く通用しないことをよく認識して欲しい。

この現象は、今回の下請け構造にも言えるのではないか。つまり、元請けが強い立場で買い手という構造だ。売り手が買い手に仕事をやるという階層的意識が蔓延するとどうなるか。阪神淡路、東日本大震災でも表面化したのは、常時、買い叩くような意地悪な買い手には資材を供給しなかった売り手の事実だった。意地悪というのは商慣習上、自社のみの利益を考えるばかり、買い手に不都合なことばかり並べたててビジネスのバランスを欠く行為である。今回のマンションでは、恐らく消費者、顧客が希望する納期、または工期がネックとなり、売り主(元請け)が下請けをいじめた(工期優先という立場でQCDの内C品質を軽視した)のではないか。しかし、顧客が企業の場合、買手の専門性も活かされ、それほど無茶なことはできない。顧客が、一般消費者で技術が疎い場合、往々にして軽視することもあるだろう。「これくらいの手抜きは買い手の誰もわからない。」という企業行動の倫理違反である。

責任者はいったい誰なのか。

下請けの階層が複雑になると一体誰が全体の責任を持つのかわからなくなるのは当然で、元請けの責任範囲と一次、二次下請けの範囲を明瞭にしておかないとおかしくなる。プラント建設の場合、下図のように、下請け業者の他に材料、資材・部品や機器、またサービス(労務、使役など)を供給するサプライヤーが出てくる。非常に複雑な構造で互いの関係性と責任、権限が不明瞭になる可能性を含んでいる。うまくいっている時は良いが問題が起こると必ず責任の所在が議論の的になる。

契約書内でそれぞれの役割と責任が明確になっていたかどうか。原契約と下請け契約の齟齬はないのか。契約とは問題が起こることを前提に作成すべきであり、性善説で考えるのは危険である。日本人同士でも阿吽の呼吸や「なあなあ」という形は許されない。まして、海外で事業展開することが増える日系企業は、必ず法律の専門家を交えて契約書作りに多くのリソースを傾倒すべきと考える。

今回の事件を教訓に、大手と言われる日本企業も一般消費者やマスコミ、一般大衆、世論には勝てないことを肝に銘じて、商取引の上でも真摯に取り組んでもらいたいものだ。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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