特別編 何処から買うか?買わずに作るか? (内外作の意思決定)

「マイナンバー」システムで収賄容疑 厚労省室長補佐を逮捕

国民一人一人に12桁の番号を割り当てる、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度の導入に絡むシステム契約を受注できるよう便宜を図った見返りに、現金を受け取ったとして警視庁は収賄容疑で厚生労働省情報政策を担当していた事務員を逮捕した。この事件は現下のマイナンバー制度に対し世論の反発が強い中でのことで、今後の制度の進捗にも影響が出るとみられる。

ここでは、公務員のコンプライアンス以上に一般的な買う側の有利な地位の乱用ということと、関係する調達組織のあり方を述べてみたい。簡略化すると次の二つが言える:

  1. 業務の相互牽制欠如
  2. 変なプロ育成へのこだわり

逮捕された容疑者はマイナンバー制度の導入に絡むシステムの契約を受注できるようIT関連業者に便宜を図り、現金を受け取った疑いが持たれている、ということだが、製品やサービスの調達に関して、官民問わず、過去から同じことが繰り返されてきた。つまり、企業購買行動に関して、個人の資質と行動規範、倫理が厳しく問われる事案である。

三権分立と言われる企業の購買行動は一般には案外知られていない。筆者は大学の講義でも口を酸っぱくして言うのは、社内での購買業務プロセスや方針の広報活動が遅れていることである。社内の人間でさえも知らないことは世間では全く知る由もないであろう。日本の企業社内でのマインドセットが望まれる。具体的には購買行為というものは

買う人 ; 使う人 ; お金を払う人

は、各々独立していなくてはならないということだ。

わかりやすく言うと、使う人が自分で買って支払ってはいけない。これは、個人や家庭では当然の現象であるが、企業や法人では許されないことだ。ここに何処からいくらで買うかが大きな問題となる。マイナンバー事件では、使う人(容疑者)が自分で買う手配(ここでは業者を決める)をしている。そうすると、そこに買うという意思決定をする人と売るという人の間で癒着が起きる。

何処の世界でも買う人は常に優位にあり、権力を持っているため、売る人は指示に従う傾向にある。そこは、よっぽど組織の長が目を光らせなければならない点だが、上長が業務に疎い場合、往々にして起こる事件だ。過去にも国内の多くの銀行で横領事件が起こったのも組織に問題があった。担当者しかわからない業務があると盲点になり、組織内での相互牽制ができなくなると、そのことに当該担当者が、いの一番に気が付く。

上長の言う「よきにはからえ」式の組織構造は最悪の結果を導く。組織が硬直するのは、柔軟な行動ができないことで、官僚的と揶揄されるが、実際には風通しが悪いことが原因だろう。活性化しない組織では、新しい発想の醸成や新規行動(イノベーション)ができない。

企業の購買行動においては、売手、つまり、サプライヤーも買手の動きを凝視していることを忘れるべきでない。特に省内の誰が発注先を決めるのかという購買の意思決定権限者を常に重視している。組織構造上では部長職や管理職に権限はあっても、現実に実務を知り業務を動かしている職位の人間に接近するのは当たり前だ。それ故に、同じ職務に同じ人を長く就かせてはいけないのは鉄則だ。この鉄則を破ることは、組織の怠慢であり、官公庁では犯罪であると考えたい

面白い話をしよう。欧米では、購買調達部署にいたマネジャーが突如辞職し、転職することが往々にしてある。その時、日本では、直属のサブマネジャーが昇進することが多いが、欧米では全く発想が異なる。同職務をこなせる人材をまずは外部から探してくる。つまり、安易にサブマネジャーを昇格させると役不足ということがあるからだ。職務記述書が明確にできておれば人材会社やヘッドハンティング会社に頼めばいくらでも候補者を挙げてくる。外部からの人材調達のメリットは、

  1. 新しい発想が期待できる:組織内にイノベーションを引き起こしてくれる
  2. 社内の常識が社外では非常識なことが明白になる:ベンチマーキング
  3. 部下も緊張しスキルを磨く動機づけになる:年功序列が通用しないことを全社に伝え能力主義を訴えることができる

 

今では、もはや古い話になるが、15年前に大手日系自動車会社に舞い降りてきた外国人COOが短期間に組織体制や組織構造の欠陥を見抜き、V字型回復を発揮したことを思い出せばよくわかることである。当時の当該企業は官僚よりも官僚的と言われたレガシーの会社であったので、新たにトップになった日本人社長は、OB連中に気を遣いながら改革を進めざるを得なかった。

例えば、当時では、系列廃止など日本人の誰が思いついたであろうか。フランスから来た新人最高執行責任者(COO)は、徹底した合理主義で「系列サプライヤー」の意義、メリットとデメリットを役員会で全員に聞いたところ、答えはゼロだったと述懐している。つまり、役員連中は、これまでそうしてきたから何も疑問を持たずにやってきたという。米国のサプライマネジメント教科書では「inbreeding」という表現で書かれている。読者も調べてみては如何だろうか。

冒頭の事件に戻ると、厚労省の担当容疑者は、省内の情報政策に影響力がある立場を悪用して業者側に便宜を図ったとなっている。実務に強い人間が影響力を持つのは当然でそういう人間は、省内で重宝されると「のさばる」結果となる。マイナンバーの導入には、政府側、民間側ともに大規模な情報システムの改築や、新規システムの立ち上げが必要とされるため、1兆円規模の市場になり、IT関連業者による受注合戦が繰り広げられているという背景を考えれば、国民の血税を無駄に使うことはできないはずだ。購買調達の基本をしっかり認識して欲しい。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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