特別編 東京五輪エンブレム、恥ずべきこと

2020年東京五輪・パラリンピックのエンブレムが白紙撤回された。筆者はこの事実から、まず選定工程の公益性を考えた。東京都の主催といえども、今や国家プロジェクトの様相さえある五輪である。公共性を考えた選定プロセスが欠如していたのは先の新国立競技場と酷似している。また責任者が不在でもある。

欧州の友人からは、日本人の納期遵守、高品質の維持、価格の透明性を信じてきたが、最近少したるんでいるねえ、と言われ、逆に納得してしまった。

企業の購入工程を見ても、社内関係者から購買部門は中身がよく見えないと言われてきた。それは、

  1. どうやって業者(取引先)を選定しているのか
  2. 業者との交渉経緯はどうなのか
  3. どの時点で契約が決まるのか
  4. 契約後の監視とレビューはどうやっているのか

特に、発注先の選定が不明瞭であることがしばしば指摘された。また、選定に時間がかかり過ぎ、その経過が不透明とも言われていた。実際に購入依頼元は結果を待つしかないのである。QCD(品質・価格・納期)の決定権限は、一般に会社内では購買部が所掌する規定があり他部門は購入依頼する権限しかない。それを逸脱した場合、会社にとって不利益をもたらすためMaverick Buyingとして、欧米では厳格に禁じているが、日本では社則が明確でない会社もあり他部門が先回りして購買予備行為を行うこともある。

Maverick Buying

Maverick buying or wild purchasing is a term used in supply chain management. One talks about maverick buying when a department buys materials or services independently, without incorporating the purchasing department. In other words, maverick buying is the purchasing outside of standard procurement processes.

The Strategic Parts Management avoids Maverick Buying:

Using the Strategic Parts Management in your company allows clear and defined procurement processes. Procurement is solely managed by the central purchase department. Business success is boosted by making optimum use of price scales, reducing suppliers and consolidating similar parts.

この予備行為とは、他部門のマネジャークラスが懇意にしているサプライヤーと事前に折衝し見積りを取り口頭で発注することである。サプライヤーにとって、当該企業(巨大企業など)の管理職が誰であれ注文を受けた場合、善意の行為として、売買取引は成立する。現実に、昨年も次のような事件が発生している。

〇〇会社元部長を逮捕:ロボット研究の架空発注で数百万円詐欺の疑い

2014年2月16日

取引先への架空発注で会社から数百万円をだまし取ったとして、県警は、詐欺の疑いで〇〇会社△△工場に勤務していた元クリーンロボット部長の社員(59)の逮捕状を取った。同社は平成24年2月、国や政府機関などのロボットの研究・開発向けの補助金事業にからみ、元部長が同社に約1億600万円の不正な支出をさせたとして詐欺の疑いで県警に刑事告訴。県警によると、元部長は取引先に部品などの架空発注を繰り返す手口で会社から資金を不正に引き出し、数百万円をだまし取った疑い。逮捕容疑は、平成21年6月2日頃、自宅のリフォーム費用をロボット開発の部品代金名目で会社に請求するようリフォーム業者に指示し、会社から業者に210万円を振り込ませたとしている。

もう一つは、誰もが聞き知っているところの競争入札である。一般的には、入札と呼ばれ、売買・請負契約などにおいて最も有利な条件を示す応札者(Offeror)と契約を締結するために複数の契約希望者に仕様書や入札金額を書いた文書を提出させて仕様・企画・設計概念や金額から契約者を決める方法だ。これは、主として国や地方公共団体などの公的機関などが行うことが多い。また、国および地方公共団体の契約は民間企業の調達案件とは違い、公共性が高いため原則として一般競争入札によらなければならない(会計法)と定められている。競争入札では、予定価格内最廉価格の入札を落札としなければならない(会計法)。

さらに話を進めると、契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められる場合や、公正な取引の秩序を乱すこととなる恐れがあって著しく不適当であると認められる場合について、次点の入札を落札として良いこととなっている(会計法)。今回のケースは次点でなく、白紙に戻すと言う、お金をさらに掛けるという実に贅沢な政治判断がなされたのであろうか。

前述した購買の手順や工程に戻ると、社内には、購買・サプライチェーン部門の”Information dissemination”というプロセスがあるが、社内の関係者さえも知らないことが多い。いわゆる購買プロセスの適確な情報の伝達行為であるが、密室行為と言われないためにも、発注先の選定経緯や結果を全社に展開すべきである。欧米では社内サーベイが頻繁に行われているが、日本は性善説に立つことが多く、社内の抵抗が強いため、個人攻撃は良くないとされている。つまり、現行の購買調達組織の活動の評価・査定を他部門の責任者に直接問うものである。

1)Aバイヤーの仕事が遅いため多くの資材の納期が遅れ生産に支障をきたしている。

2)Bバイヤーは私用でサプライヤーをこき使っている。

3)Cバイヤーは出張が多く、購入依頼元の要望をまともに聞いてくれない。

5段階評価での判定であるが、他部門の全員ではなく、上長が責任を持って判断する。しかも、繰り返し行なわれるため平準化されるというものだ。

襟を正すと言う意味でも価値ある、実践可能なサーベイであろう。

さて、今回のエンブレムの選定工程に関して詳しくは知らされていないが、例えば米サプライマネジメント協会(Institute for Supply Management)のグローバル購買資格試験の教材に、これと関連する面白い手法があったので紹介しておく。2000年上旬にテレビ等でも取り上げられたインターネット調達手法である。該当部分を抜粋する:

リバース・オークション Reverse auction

売り手が買い手を選定する通常のオークションと異なり、買い手が売り手を選定する逆のオークションである。政府による調達の際に行なわれる競争入札がこれに対応する。ある商品を買うものが売り手の間で価格入札を行なわせて、最も安い価格を入札した者から購入を決定する。純粋な価格競争が可能となり、最適価格が市場を挟むことなく実現する。米国の旅行会社Priceline.com社によって、航空券を指値で購入できるサービスとして考案された。

日本語訳では「逆競り」となるが、要するに、調達品やサービスの情報を公開して広く応募者を集めることである。インターネットが発達したことによって、特に米国ではリバース・オークションReverse auctionsが画期的な調達手段として登場した。

但し、この種のオークションは一般的に次の基準に見合う商品やサービスに利用されるとされている:

① 市場における十分な競争

② 確定した仕様内容

③ サプライヤー切り替えコストの事前考慮

④ 技術的にも経済的にも比較可能な見積

⑤ 対象品は現行のサプライヤー含めて高度に戦略的でないこと

⑥ 期待節減額はオークション設営費より大きいこと

⑦ サプライヤーはインターネット環境にあること

更に、商品でもサービスでも「リバースオークション」を使うことで次のメリットが享受できるとも言われた:

Price transparency

価格の透明性

Expanded bidders’ / suppliers’ participation

入札参加者の拡大

Price validation

価格の法的有効性

Real time supplier evaluation

リアルタイム(同時)サプライやー比較評価

Increased productivity and reduced bid cycle time

生産性向上と入札時間の減少

Price compression

価格圧縮

一度導入段階が完成し、すべての利害関係者がオンライン利用に整列すると、そこには幾つかの尊重すべき手順がある。オンラインによるリバース・オークションのプロシージャーは次の通りである:

① RFP質問と要件を確定する

② インターネットベースのツールに対象を載せる

③ 利害関係者のフィードバックを獲得する

④ 有資格サプライヤーに参加を招聘する

⑤ 以前RFP/RFQにあれば、最初のサプライヤー入札書追加

⑥ チームメンバーと訓練を計画し主催する

⑦ サプライヤーと訓練を計画し主催する

⑧ 全参加者へ秘密のユーザー名とパスワード配布

⑨ 必要ならば練習オークションを実行し、追加の訓練を施す

⑩ 実際に開始する

15年を経て今では欧米でも電子調達のメリットも薄れ気味と聞く。マンネリ化であろうが、自社並みに検討や改良を加えて完成させた企業もあるようだ。

新国立競技場位の建設でもそうだったが、一定のプロセスを愚直に守ることはプロジェクトの責任者の義務であり、面倒くさいや時間がないという理由は一切通用しない。それは、公共施設であるからだ。同様に、世界が見ている東京五輪2020のロゴマークの設計者や設計団体の選定工程こそ公共以上に世界視点から重大な決定事項であり、責任者不在では許されないのである。これは、日本企業の取締役会や稟議書に酷似していると言えよう。役員全員が合意して署名しているから、取締役以上の全員が責任者で個人攻撃はしないと言う日本の美学であろうか。しかし、この美学も残念ながら、グローバル視点では通用しないことを肝に銘じてほしい。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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