第14回 日本企業のグローバル経営組織

報道では、大手自動車メーカの常務役員が麻薬を密輸したとして警視庁に麻薬取締法違反容疑で逮捕された。真相は不明だが、ここでは麻薬という違法薬物という問題ではなく、日本企業のグローバル経営組織について述べてみたい。

同容疑者は、今年4月「グローバル化戦略」を進める大手自動車メーカで初の女性役員に抜てきされ、広報担当で所謂「会社の顔」だった。彼女の役員起用は、女性登用や多様な経験を持つ人材の取り込みに向けた同社の目玉の一つだったことから、日本企業、しかも巨大と言われる大手企業のグローバル組織の脆弱性を考えたい。

最近の言葉で「ダイバーシティ」というのがある。例えば、人材の多様化を目論む大手自動車メーカの世界戦略の一翼を担っていたと言えば分るだろう。同容疑者は就任会見で「大きな責任を感じる。大家族の一員として日本の生活も楽しみたい」と抱負を語っていたのが今や虚しく聞こえる。

誰もが考えるのは大手自動車メーカともあろう会社が、かも知れないが、実情は日本企業であればどこも国際化されていないということだ。かくいう大手自動車メーカもマスコミからは、空前の業績や世界中の生産拠点を網羅している事実からグローバル企業と囃し立てられるが、欧米の多国籍の巨大企業と比べると心もとない部分が多い。その理由は、ガラパゴスに沈んでいるからだ。よく出てくるガラパゴス化とは日本で生まれた用語で、孤立した環境で最適化が著しく進行すると、範囲外との互換性を失い孤立して取り残され、外部から適応性と生存能力の高い種が導入されるという意味だ。

大手自動車メーカが何故東京に本社を構えないのか、中部国際空港を擁しているとはいえ関空とは比べるべくもない。東京や大阪が嫌ならば、シンガポールやインドに本社を移せばよい。社長や副社長が自家用ジェットを何台持っているか知らないが、いつでも迅速に現場に飛んでいける組織運営をとっているか。小さな島国では必要なかったかもしれないが、グローバルを掲げるからには相当の投資をしてほしい。日本人の間違った贅沢心が多くの国で誤解を生んでいるからだ。米国自動車会社社長の報酬が多いのは成果に比例しているからで、決して間違ってはいない。小市民的な考えを棄てて、グローバルでなくマルチナショナル企業を目指したいものだ。一昔前に流行った多国籍企業の定義を再度確認しよう。

A multinational corporation is an organization that owns or controls production of goods or services in one or more countries other than their home country.

一般定義:
多国籍企業とは活動拠点を一つの国家に置かずに複数の国にわたって世界的に活動している営利企業のこと。

国連のUNCTADの定義:
資産を複数の国において統轄するすべての企業、また2か国以上に拠点を有する企業のこと。

その他の定義:
多くの国々に生産設備を持っている、多くの国々に販売拠点や事務所を持っている会社。

中でも、超巨大な多国籍企業は、金融、石油、自動車、IT, 半導体、防衛に多く見られ、製造業の場合は工場などへの大規模な設備投資が必要なほか、グローバル市場に対応した商品を生産、製造、流通させている。重要な点は、複数の国にまたがり事業を進め、かつ企業規模が大きいこととされており、単に製造拠点を海外に置いただけの企業や、2、3か国でしか展開していないような中小企業を「多国籍企業」とは定義しないことだ。

業種は異なるが、創業200年以上の製薬業界の盟主と言われた老舗会社の当時の社長の「同社グローバリゼーション」への覚悟は強いと聞いていた。経営の最高執行機関として「エグゼクティブ・チーム」を組成し、現社長を筆頭に外国人が16人中10人を占めている。同社は、経営幹部を根こそぎ国際化しようとしており、これほどの日本の巨大企業ではかつて起こり得なかった事態が現実に発生中だ。

思い返すと日本の巨大企業に関する逸話が多く出てくる。例えば、大手硝子メーカだが、買収した英国法人社長を日本の本社CEOに据えたが、家庭の事情で退任した。大手電機メーカの前社長は、英国ウェールズ出身、米国で活躍するジャーナリスト、TVプロデューサー、実業家であったが故に、イノベーターとしてのの製造技術をついに理解できず巨額の退職金を持って去った。

一方で、思い出されるのが、精密機器メーカで大騒動を起こした前社長の場合は面白いというより外国人経営者の面目躍如だったと言えよう。それは、前任の日本人経営者の犯罪を暴き、企業ガバナンスを徹底して改善したのだ。閉ざされた日本経営の中であっぱれであった。日仏合弁自動車企業の社長の場合は、今でも現役のため評価が難しいが大きな変革をもたらした成果は実に大きかった。

話を戻すと、麻薬密輸容疑の事件は会社のイメージを著しく傷つけた責任は重いしグローバル広報責任者という立場では反論のしようもないであろう。筆者は海外人脈との接触も多いが、時々言語を越えたレベルでの理解不能な事態に直面する。実績や面接では人の性格は見抜けないし、ヘッドハンターの裁量性も大いに関係する。とりわけ、性別にかかわらず単身赴任は何かと問題を起こすというのは、「単身赴任」という用語さえ存在しない欧米人事責任者が日本人経営者に教えてくれたことだった。それが、今回の容疑者の長期ホテル住まいで発覚したのは、いかにも皮肉としか言いようがない。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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