特別編 ネパール大地震と物流手段

報道では、ネパール中部で4月25日発生した大地震で、エベレスト周辺で地震による雪崩に巻き込まれた日本人男性1人を含む3300人以上の死亡が確認された。現地では余震を恐れて多くの被災者が屋外に張ったテントの中で夜を過ごすなど、厳しい避難生活を強いられている。25日午後、マグニチュード7.8の大地震でネパール国では多くの住宅や歴史的な建造物が倒壊した。

また、この地震で外国人を含む多くの登山者が訪れていたエベレスト周辺で雪崩に巻き込まれた多くの人がいるという。地震の被害は周辺の国々にも広がって、インド、中国のチベット自治区、バングラデシュで被災が確認されている。

特に被害の大きかった首都カトマンズでは倒壊した建物の下に閉じ込められている人たちの救助活動が続いているほか、多くの被災者が余震を恐れて屋外に張った簡易のテントの中などで夜を過ごすなど厳しい避難生活を強いられている。

ここで、日本人から見たネパール国をもう一度確認してみよう。開発途上国もいろいろあるが同国は特に「後発」が前につくほど経済的に遅れている国である。

ネパール連邦民主共和国、通称ネパールは、南アジアの共和制国家。2008年に王制廃止。東、西、南の三方をインドに、北方を中国チベット自治区に接する西北から東南方向に細長い内陸国。国土は世界最高地点エベレストを含むヒマラヤ山脈および中央部丘陵地帯と、南部のタライ平原から成る。ヒマラヤ登山の玄関口としての役割を果たしている。面積は約14.7万㎞で北海道の約1.8倍。多民族・多言語国家(インド・アーリア系の民族と、チベット・ミャンマー系民族)であり、民族とカーストが複雑に関係し合っている。また、宗教もヒンドゥー教(元国教)、仏教、アニミズム等とその習合が混在する。経済的には後発開発途上国である。農業を主たる産業とする。ヒマラヤ観光などの観光業も盛んである。

ネパール中部の大地震を受け、各国の緊急支援チームや国連機関、非政府組織(NGO)などが緊急支援に動いている。食料や医療物資などの配布が始まったものの、物流網や通信の混乱・寸断が支援を妨げるケースも出て、インドなど近隣諸国を合わせ死者が数千人に上るという中で被害の拡大を防ぐため物理的インフラストラクチャーの復旧が喫緊の課題となろう。

残念なことは、本コラムの第8回にて、アセアン・サプライチェーンの実態に関して寄稿したが、東南アジアと隣接する同国が含まれていないことだ。アセアン10ヶ国の内、最も西がミャンマーで、国境を接するバングラデシュ、ブータン、ネパールは含まれていない。

つまり、ASEANでは2015年のASEAN経済共同体構築に向け、連結性の強化が大きな課題となっている中、日本政府によるASEAN連結性支援を通じてASEAN域内の連結性、日ASEAN間の連結性、またより広域での連結性強化に取り組む方針が示されている。日本政府は、これらのプロジェクトを通じた連結性強化のためのソフト面のインフラ開発、貧困削減、保健医療などの生活水準の引き上げ、各国の国内格差是正に向けたインフラ整備といった支援を継続していくため、今後5年間で2兆円規模のODAによる支援を行なうと決めた。

勿論、外務省、JICAなどの政府機関は、インドを含む南アジアへの政府開発援助の構想を持ち、実際面でも支援をしているがアセアンのような2015年実現目標とは置いていない。さらに、日本が強みとする自然災害に対する運営管理の分野においても、災害対応は日・ASEANの共通の課題だとの認識から、防災ネットワークの拡充、人道支援・災害救援協力などをはじめとする、災害耐性強化に向けたASEANの取り組みを支援していく方針で、災害対処能力向上、高品質な防災インフラ整備を柱として5年間で3,000億円規模の支援、及び1,000人規模の人材育成を実施すると表明したとされた。ここにもネパールは入っていない。

地図上では、ネパールという国は、北を中華人民共和国のチベット自治区、西をインドのウッタラーカンド州、南をウッタル・プラデーシュ州とビハール州、東をシッキム州と西ベンガル州に接する完全なる内陸国である。国境の長さは合計2,926km、うち中国国境1,236km、インド国境1,690km。今回の地震でも明らかになったように、中国国境地帯にはエベレストを初めとする8,000m級の高峰を含むヒマラヤ山脈が存在するため高山気候となっている。面積は140,800km²で北海道の約2倍だ。

現在、救援物資や救助隊の輸送や救助の専門家の派遣を開始したインドやパキスタン、英国に続き、中国やドイツ、フランス、アラブ首長国連邦やイスラエルなど既に14カ国の医療チームと14~15カ国の捜索・救助隊が現場に向かっているとのことだ。

ここで問題となるのは、物流網と人の輸送ルートである。ネパールの物流インフラの要のトリブバン国際空港は地震による影響が比較的少なく、インドなど海外からの救援機が到着していると聞く。但し、同国外への脱出を求める観光客や市民が空港に押し寄せるなどといった混乱も見られている。

スイスのジュネーブに本部を置く国境なき医師団は、隣国のインドやベルギーなどから複数の医療チームをカトマンズなどに向けて出発させたが、相次ぐ余震の影響で陸路のチームはネパールに到達したものの飛行機が引き返すなど困難を極めているようだ。カトマンズの国際空港は救援機で混雑し、民間機で現地入りを目指す各国の救援隊が経由地で足止めされるケースが出ている。日本の国際緊急援助隊が乗った航空機も27日午後にカトマンズ上空まで来たが、着陸許可が出ず、インドのコルカタに引き返した。

インフラは物流だけではない。電話線が寸断されているため携帯電話を充電する電気もなく通信が非常に難しい状態となっている。首都カトマンズでは救出・救援活動が進みつつあるが、山岳地帯では道路が寸断され、救援隊も近づけない状態が続いていると聞く。

下図は東日本大震災時に筆者が主宰するサプライチェーン戦略研究会で調査した報告書から「物流体制の充実」について抜粋したものである。

主に企業の事業継続や調達継続について研究したものだが、自社便の項で、陸海空と加えたのは日本では、領土が狭いことから陸が中心だが、海外では3つの手段がほぼ並行して考えられていることを指摘したかったのだ。もう一つは「重機完備」である。道路が寸断されておれば道路を作るしかないわけで、ここでも発想の大転換が求められるのである。次の表で企業向け質問を準備してみたので答えてほしい。

テーマ

質問

1

自社便

被災した調達先から部品が入ってこなくなった時、
そこまで自社便で取りに行くことができますか。

2

代替物流

自社調達防衛のため通常の物流に加え、
代替となるべき物流手段を持っていますか。

3

海外物流

海外品に関し、港湾地区の機能停止など非常事態に備え、
代替となる物流手段や輸送ルートを確保していますか。

4

輸送契約

一般的な不可抗力条項や免責条項を超え、
輸送契約にて損害を回避できる条項を入れていますか。
また、サプライヤー契約に不測の損害を回避できる条項を入れていますか。

この物流に関する質問では敢えて想定外のことを聞いている。災害時ではすべて想定外のことが起こるからだ。アンケート結果の回答の中で自社便、代替物流手段、海外物流ルートでは、半数以上が「ノー」と答えた。欧米では「サプライチェーン」イコール「物流」と捉える企業人も多く、日本と彼我の差が大きい。それは、日本の独特な取引慣習(持込み渡しDDPと工場渡しEx-Work)に依存すると考えられるからだ。物流業界では現下、共同配送と物流の共同化が業務の効率化や環境対応、コスト削減の面から大きなテーマとして浮上しているが、一歩進んで、地域共同体・コンビナート地帯での水平的、また垂直的物流共同化を目指すべきと考える。

※水平的:競合会社の物流共同化

※※垂直的:スーパーマーケット中心の小売・卸・メーカー(発荷主)

アセアン共同体の話に戻すと、日本は今後5年で2兆円規模のODA支援を表明し、経済連携協定に加え航空輸送分野における協力強化に向けた取り組みとして、日・ASEAN間航空協定の締結に向け検討が始まっている。地震などの輸送ルート寸断では空を利用するしかないのは東日本大震災で日本人は経験済みだが、途上国ではそうはいかない。

自然災害は予期せぬ時にやってくる。ネパール国民の人家は地震の対策が全くできていないと聞く。ビルや家屋多数が倒壊し、倒壊家屋の瓦礫を素手でかき分ける生存者の様子が伝わってくる。首都カトマンズ郊外の著名な観光スポットである19世紀建造のダラハラ塔も倒壊。また古都の旧市街では数世紀の歴史のある木造寺院なども倒壊したという報道だ。

途上国の世界遺産にまで頭が回らなかった人は、筆者だけかも知れないが、世界遺産はアジア諸国にも多く存在し、観光資源にもなり、これらの途上国の観光産業に大きな影響を及ぼす有形資産である。大きな自然災害に対して、足下の救出は、もちろん大切であるが世界遺産といった万民の大切な資産の保護についても一考の余地があるのではないだろうか。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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