第10回 アセアン・サプライチェーンの実態(続2)

今回でASEAN諸国でのサプライチェーンの実態調査報告を終えることとする。サプライチェーンのプロセスを構築する中で各地域が活性化し、それにより日本企業と現地企業との双方向(Win-Win)の持続的競争力が確保され将来性のある発展が可能となるという大きな絵(Big picture)を描いている。そこで、ずばり「コラボレーション」というキーワードを使って調達活動を調査した。

Ⅲ. コラボレーション調達に関する質問

ASEAN諸国での日系企業の生産拠点の競争的持続可能性確保には、多くの国・企業との協調関係、いわゆるコラボレーション行動が欠かせないということで、次の3つの質問を投げかけた上で回答を分析したので報告する。

Q6

ASEANでの調達活動において、仕入れ調達業務から顧客に届けるまでのサプライチェーン全体のリードタイムを短縮するための以下の14個の活動の重要性について、右の重要度から該当するものを選んでください。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

A6 回答結果は下図の通りであった。

ASEANでの調達活動において、
仕入れ調達業務から顧客に届けるまでのサプライチェーン全体の
リードタイムを短縮するための以下のような活動の重要度

平均値

Q6S1

優秀なサプライヤーを確保する

3.82

Q6S2

優秀な物流業者を確保する

3.75

Q6S3

優秀な販売店を確保する

3.64

Q6S4

物的インフラを整備する

3.72

Q6S5

制度規則のインフラを整備する

3.64

Q6S6

人脈・企業間ネットワークを築く

3.78

Q6S7

政府自治体とのパイプを太くする

3.60

Q6S8

十分な在庫を確保する

3.23

Q6S9

構内(協力)業者を教育する

3.56

Q6S10

構内物流を効率化する

3.57

Q6S11

情報システムを強化する

3.59

Q6S12

倉庫能力を拡充する

3.33

Q6S13

従業員教育を強化する

3.72

Q6S14

日本本社が主導的に支援する

3.28

ほぼ二つのポイントに分かれる。第一は重要度の高いもの、第二は若干低いものである。前者には、優秀なサプライヤーを確保する、優秀な物流業者を確保する、優秀な販売店を確保する、物的インフラを整備する、制度規則のインフラを整備する、人脈・企業間ネットワークを築く、政府自治体とのパイプを太くする、構内物流を効率化する、情報システムを強化する、従業員教育を強化するがある。

他方、若干低いものには、十分な在庫を確保する、構内(協力)業者を教育する、倉庫能力を拡充する、日本本社が主導的に支援するなどがある。後者は、重要とは考えるが、さしあたって前者が優先するという回答者のおおまかな判断であるとみる。

いずれにせよ、これらの回答のメリハリは少なく、どれが際立って鍵になる改善か煮詰まっていない状態にある。方法論的には、実践の仕方に関連するものが多い。サプライヤー、販売店、物流業者、そして自治体とのネットワークづくりが重要な課題である。制度および物的インフラの問題も実際の実践の効果を左右するものとして重要な課題になる。 要するに、関係性と人材がキーであると認識すべきだろう。

制度的基盤変革

能力(投資)

実践

1

制度規則のインフラ整備
(3.64)

物的インフラの整備(3.72)

優秀なサプライヤーを確保する
(3.82)

2

人脈・企業間ネットワークを築く
(3.78)

3

優秀な物流業者を確保する
(3.75)

4

従業員教育を強化する
(3.72)

5

優秀な販売店を確保する
(3.64)

Q7

ASEAN諸国では市場を新たに創造することが求められます。現地で新たな市場を創造するにはどのような活動が重要と考えられますか。下の活動に関してその重要性を、右の重要度から該当するものを選んでお答えください。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

A7 回答結果は下表、下図の通りであった。

ASEAN諸国では市場を新たに創造することが求められます。
現地で新たな市場を創造するにはどのような活動が重要と考えられますか。

平均値

Q7S1

価格を重視する

3.62

Q7S2

ブランド性を強調する

3.42

Q7S3

品質的優位性を強調する

3.84

Q7S4

優秀な現地パートナーを見つける

3.77

Q7S5

販売網の維持・拡大を図る

3.74

Q7S6

消費のけん引役となる中間層の消費動向を調査分析する

3.54

Q7S7

市場の大きな割合を占める低所得者層(BOP)の消費動向を注視する

3.46

Q7S8

当該国女性の進んだ社会参加を基礎に女性の消費性向を調査分析する

3.31

Q7S9

富裕層の消費動向を注視する

3.35

Q7S10

少子高齢化を基礎にシニア市場を注視する

3.09

Q7S11

各国のビジネスコストを明確にする

3.64

Q7S12

当該国の生活に根ざした供給網を構築する

3.61

Q7S13

当該国の食生活に重点を置いた供給網を構築する

3.32

Q7S14

地産地消を重視する

3.25

Q7S15

ローカルサプライヤーとの良好な関係を築く

3.68

Q7S16

調達サプライ網を拡大する

3.49

Q7S17

サプライマーケットインテリジェンスを強化する

3.38

Q7S18

人脈・企業間ネットワークを築く

3.72

Q7S19

当該国の政府自治体とのパイプを太くする

3.60

Q7S20

日本の本社が主導的に支援する

3.22

Q7S21

環境負荷低減、省エネを基礎に地域社会に溶け込んだ施策を進める

3.31

企業活動のエッセンスである価値創造に関わる要因は無数にある。

価値創造の考え方として

①事業基盤の地域における位置づけ

②ターゲット市場の明確化

③価値特性の明確化

④価値創造のプロセスの特性

という4段階の決定がある。

それらの諸段階における高い重要度の項目で多くの企業が想定する価値創造の特性を描くとすれば、まず事業展開のコンセプトとして、生活に根ざす供給網を構築することで持続可能性の基本を押さえ、中間層市場を当面のターゲットとし、品質と価格を重視し、現地パートナー関連を強化するプロセスづくりということが色濃く出ている。確かに、このような考え方は現在の日本企業においては支配的であろう。

Q8

ASEAN諸国内において現地国ローカル既存企業との調達コラボレーションには何が重要と考えていますか。 下の活動について、その重要性を右の重要度から該当するものを選んでお答えください。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

A8 回答結果は下表、下図の通りであった。

ASEAN諸国内において現地国ローカル既存企業との
調達コラボレーションには何が重要と考えていますか。

平均値

Q8S1

一つの国に地域統括本部を置き、そこで域内調達をコントロールする

3.31

Q8S2

当該国それぞれに調達統括本部を設置する

3.28

Q8S3

3国間連携等各国の持ち味を生かしつつ、個々の案件別に進める

3.31

Q8S4

一つの国に保守メンテナンスサービス拠点を設置し、供給網を補完する

3.29

Q8S5

当該国に保守メンテナンスサービス拠点を設置し、供給網を補完する

3.38

Q8S6

日本本社が主導的に人脈及び企業ネットワークの構築を支援していく

3.21

Q8S7

現地での人材育成、キャリアアップを推進する

3.72

Q8S8

当該国サプライヤー網を精査する

3.60

Q8S9

現地既存企業と合弁等で連携する

3.48

Q8S10

ASEAN内の販売網を維持・拡大していく

3.57

Q8S11

当該国の優位な産業に特化して調達を図る

3.43

Q8S12

タイの自動車産業のような裾野の広い産業を各国で育成していく

3.57

Q8S13

当該国でJICA・日本政府支援を活用して調達関連産業を育成していく

3.42

Q8S14

日本でマザー工場構想を進め、そこから現地に支援していく

3.30

Q8S15

日本の製造技術を当該国にて供与し、現地産業を育てる

3.42

Q8S16

当該国での現地社員の雇用を第一優先にし、当該国から信頼を得る

3.59

取引パートナーの適切な選択、人材をベースに現地化をしていくことがコラボレーションの実践面での重要事項として認識されている。将来的には裾野が広い産業基盤を形成することを狙いとしている。概ね明確に異なる回答パターンが共存するのではなく各内容そのものが一律的に平坦に重視されていること変わりないと言えよう。

制度的基盤変革

能力(投資)

実践

1

          

タイの自動車産業のような
裾野の広い産業を各国で育成していく
(3.57)

現地での人材育成、
キャリアアップを推進する
(3.72)

2

ASEAN内の販売網を維持・拡大
していく (3.57)

当該国サプライヤー網を
精査する (3.60)

3

当該国でJICAおよび日本政府支援を
活用して調達関連産業を育成していく
(3.42)

当該国での現地社員雇用を
第一優先にし、当該国から
信頼を得る(3.59)

4

日本の製造技術を当該国にて
供与し、現地産業を育てる (3.42)

現地既存企業と合弁等で
連携する (3.48)

5

当該国の優位な産業に特化して
調達を図る (3.43)

まとめ

①リードタイム・②新規市場創造・③調達コラボについて質問し、何が重要な要素であるかを問うたわけだが、次のようにまとめることができる。

とりわけリードタイムに焦点を当てた訳は、アセアン諸国の10ヵ国は半島、大小無数の島群、海域、河川など物流面での困難が前提として有り、製造工程のリードタイムを越えたところ、即ち販売物流面の問題、そして究極的には、サプライチェーン全体のリードタイムにネックがある可能性が大であるからだ。

サプライチェーンは供給連鎖、または供給網とも訳されるが、折角、新製品の開発、または新規市場の開拓を実現しても、リードタイムが不正確、不明確で顧客に届けることができなければ顧客満足(consumption satisfaction)を得ることはできない。しかしながら、調達物流を中核にした物流面御適切なパートナーを確保していれば相当な割合で解決が見えて来るとも予想できる。

筆者の少ない海外実務経験からでも、インプットとアウトプットを如何に短くするかに腐心してきたものだ。上図は以前にも示したものであるが、主体となる3種類の物流を海外拠点という立場で再認識すると、サプライヤーからの安全で安心できる仕入れルート(調達物流)と確実な輸送網、信頼に足る出荷ルート(販売物流)を確保することが特に東南アジア諸国、またグローバル経営では最重要となる。

今後、海外、新興国や途上国などの新市場でイノベーションを発揮する機会が多く出てくることが予想される。適切なパートナー選びと信頼できる人脈形成(Human networking)、それらの維持継続から真の持続可能な経済社会が生まれるものと確信する。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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