特別編 2020年東京五輪に向けて

先日、環境学会にて、東京大学名誉教授と会った。同氏は2014年8月、一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 会長 元内閣総理大臣に宛てて、『2020年の東京五輪を"三方よし"の「エシカル五輪」に』とする要望書を提出した、と聞いた。学会では顔を合わせていたものの少人数の席で会って直接話を聞いたので筆者なりの注釈を加えたい。

はじめに

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを「エシカル五輪」とする要望は非常に感動的だ。それは、オリンピック憲章に定める「オリンピズムの根本原則」が、その第一原則として「社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造」を掲げオリンピックが「エシカルな生き方」を基本哲学として追求しているからだ。

ここで「エシカル五輪」の基本コンセプトを確認してみよう。

  1. 人と環境に優しいエシカル五輪

ロンドン五輪では環境を優先した大会となったが、それに加え基本的な人権や社会的な影響にも配慮した「人と環境の両方に優しいエシカル五輪」とすることには意義がある。

  1. エシカルな調達と運営

東京五輪に関わる全ての資材、機器、食材の調達、そして大会運営をエシカル化すること。実経験をもとに、東京五輪後に、東京都を含めた日本全体の政府自治体と民間の資材調達と運営にも活かすことが挙げられる。例えば、金、銀、銅メダルの原材料には東京都で回収した廃棄物からリサイクルした金、銀、銅を用いる、選手村で提供する多くの食品をフェアトレード、オーガニック、ASC認証製品等とする、選手の制服はFairtrade印のエシカルファッションベースとするなどである。

  1. エシカル・スタンダードの確立

調達および運営のエシカル化に加え、企業をはじめとするあらゆる組織がISO26000等に示された社会的責任の完遂を促進すること。

  1. サステナビリティ確保の標準化

環境問題に配慮し持続可能な開発を促進する形で五輪大会を開催するようオリンピック憲章が求めている。それ以来2012年のロンドン五輪は持続可能な調達基準に従った資機材調達を行い2016年開催予定のリオ五輪も持続性の認証を得た水産物の提供を既に決定するなどサステナビリティの確保は五輪大会開催における標準となった。

  1. 環境配慮からエシカルへ

環境優先を掲げる東京五輪は、上記の標準に即しているものの、サステナビリティが環境配慮にとどまらず社会的配慮も含む包括的な概念であること。この精神が日本国内においても殆ど十分と言えない。

  1. 資材調達とサプライチェーン

五輪関連の調達を行うにあたって震災被害の大きい東日本の復興に資する調達、社会的弱者に配慮した調達(Diversity procurement;ハート購入=障害者優先調達、途上国の零細な生産者に配慮したフェアトレード等)、児童労働や紛争鉱物を排除した社会的責任(CSR)調達、中小企業に配慮した調達等、社会に配慮した調達を行っていくこと。

調達するモノやサービスが、そのライフサイクルのすべてにおいて環境および社会(末端の労働者・生産者を含む)に悪影響を与えず、好影響を及ぼすようなサプライチェーン・マネジメント(SCM)を確保すること。

男女均等に配慮し女性の地位向上に資する調達や運営を行うこと。

あらゆる面において多様性を重視し、寛容でインクルーシブな(包摂性の高い)大会とすること。

  1. 環境問題

あらゆる面において、環境負荷を最小化し、自然との共生(生物多様性の保全・強化を含む)を図ること。

公共交通機関や自転車道を充実させるとともに、カーシェアリングやパーク・アンド・ライド等の普及によって乗用車への依存を減らすこと。

再生可能エネルギーを最大限活用するなど地球温暖化を食い止め(カーボンニュートラル)、可能な限り逆転させる(カーボンマイナス)こと。

3R(再利用・再生利用・発生抑制)を推進するほか、環境に配慮したサステナビリティ調達、つまり第三者認証型エコラベル、MSC/ASC認証、FSC認証、フェアトレード認証、レインフォレスト・アライアンス認証、オーガニック認証された製品の調達を行うこと。

事業活動から排出される環境負荷量(CO2排出量<SCOPE3>等)をLCA手法に基づき算出し、公開するなど社会責任行動を実践するサプライヤー企業から資材と機器n調達を行うこと。

おわりに

ここまでは、エシカル五輪構想の要望書の内容を資機材調達に焦点を当てて解説してみたが、最重要なことが数件漏れているようなので付け加えておきたい。

一つは、事業継続計画(BCP)、また調達継続計画(SCP)である。地震学者含め多くの有識者から、東京都は既に危険な地域に指定されており、五輪開催中に大地震が無いとは誰も言い切れない。その対策、五輪という事業を継続できるための計画はできているか。

二つ目は社会的責任を基礎としたサプライチェーンに関してかなり突っ込んで述べているが、調達行為以外に物流行為があることを忘れていないか。グローバル調達は、物流、ロジスティックスを除いては決して達成できないものである。フェアートレード、紛争鉱物などは、全て地球の反対側から仕入れるものが多いため、物は出ても東京まで着かないことを真剣に考えるべきだ。民間の知恵が必要ではないか。

三つ目は、多様性である。これは、日本では馴染みのない概念だが、その事実は日本だけであることを今から考えておくべきだ。多様性オリンピックというと笑われるかも知れない。何故か、五輪そのものが5大陸に渡って多くの地域、国の民族が参加するのが当たり前だからだ。

一方で、近年のダイバーシティーを東京五輪でどのように発揮し実現するか。議論はこれからだが見通しが甘いと言わざるを得ない。新興国や途上国支援に五輪調達を結び付けることも考えられるだろう。ODA(政府開発援助)には大きな存在感を示す日本だが、目に見える段階まで至っていないのが最近のアンケート結果で表明された。途上国支援には五輪という華やかな場ほど望ましいものはないだろう。極力官僚的発想を捨てて民間の活力を利用したCSV(共通価値の創造)に持って行けないだろうかと思い悩む毎日である。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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