特別編 外資企業から罰金刑で全てを奪い取る新興国


精密・電子機器メーカの中国法人が撤退に当たって難題を抱えているという。同社は現地工場閉鎖の決定を発表したが、中国内で大きな反発を受けた。現地1000人を超える従業員たちは雇用契約終了を受け入れる確認を期限付きで求められた。

中国では20人以上を解雇する場合、1カ月以上前に従業員へ通告しなければならないという。マスコミによれば、同社側では今回の撤退は解雇ではなく会社の清算なので適用されないとしている。しかし、翌日には抗議のデモが起こり多くの社員が解雇同意書にサインしていないという。さらに悪いことに、現地で大きく報道されている。その後、退職金に2カ月分の賃金を上積みすることにより、全従業員からの解雇同意を取り付けたという。同社側は退職金の総額は明らかにしておらず、実際には相当の授業料を払って事態の収拾を図ったとみられる。

中国で労働問題が起こると、日本企業は糾弾されやすい。同社の場合、まず地元で裁判を起こされるリスクや行政により罰金を課せられる事態もある。そうなると懲罰的に高額な金額となる可能性は大である。さらに、工場が保有している機器などの資産も差し押さえられ没収されることもある。工場内の資産は日本に返ってこず、技術情報など特許関係の知的財産まで収用されてしまう事態ともなる。

日系に限らず、中国は米半導体大手クアルコムが独占禁止法に違反したとして、約1150億円もの巨額罰金を科したことは有名だ。中国に進出する企業の間では、独禁法が恣意的に使われているとの批判も強く、中国が政治的あるいはビジネス戦略的に同国へ進出した外資系企業に対して独禁法を適用しているという。


ある電気機器メーカーは以前、中国とメキシコでのテレビ生産から撤退することを決定した。山東省の工場の生産を停止し、今後は他社ブランド製造(OEM)方針に切り替え、販売を継続するという。また他の電気機器メーカーも昨年、海外テレビ事業の撤退を発表し、中国大連市の工場閉鎖を決めている。いずれも競争激化に伴う収益改善に向けた世界生産体制見直しの一環。

世界を席巻した日本企業も今は時代に見放され、日本回帰が黒字確保のわずかな望みとなっているようだ。 多くのアナリストは、日本企業の撤退は中国テレビ産業にとって大きな材料であり、2015年、中国テレビメーカーの海外進出・海外展開にとって重要な年になるとの見方をしている。テレビ事業の縮小を日本企業の勝敗を論じる根拠にしてはならないとし、競争上の強みを失った分野で日本が退場を選択するのは賢明な策だとの見解を示している。


さらに日本企業の中国市場からの撤退は、今に始まったことではない。尖閣諸島に関する争いが激化した2012年、政治上の問題が経済に直接影響を及ぼし、中国人による日本企業襲撃や日本製品ボイコットが発生し、中国市場から日本企業撤退のニュースが絶えなかった。一方、現在の状況を見ると中国市場からの全面撤退というレベルには達していないが、多くの日本企業は安全、安心、衛生面で大きな不安を抱えており、両国の政治関係の悪化が経済に影響を与えていることは間違いないだろう。ただし、政治関係の悪化が日本企業撤退の根本的な原因ではなく、むしろ中国経済の減速や中国での人件費・生産コストの上昇など、多くの要素が日本企業を東南アジア諸国連合(ASEAN)各国へと向かわせているのが現状だろう。日本貿易振興機構の統計では、日本の13年の対外直接投資額は前年比10.4%増の1350億ドルだった。その内、対中投資額は、同32.5%減の91億ドルと大きく落ち込んだ。一方、ASEAN各国へは236億ドルで、同3.2倍の大幅増となり、中国から今後の大きな発展が期待できる東南アジアへと方向転換する日本企業の姿が鮮明になっている。両国関係がいかに発展しようとも、日本企業の中国からの撤退が長期的なトレンドとなっていることは間違いない。このことは、安価な労働力に依存した中国のこれまでの発展モデルがすでに限界に達したことを表している。


中国への日本メーカー進出がブームとなったのは円高が急速に進んだ1990年代後半。当時、中国進出を検討していた日本メーカーには香港の中国人企業なら中国内でうまく立ち回れるから、彼らと組んで進出するのが望ましい。そうでないと、いざ撤退する時に何も持ち帰れないことがある、と有識者は忠告していたのを覚えている。今では台湾企業が香港に替わって活躍しているようだ。いずれにせよ、日本から出るということは簡単ではない。これは大きな決断と投資であるため、往きは良いが、帰りは怖いということを肝に銘じる必要があるのではないだろうか。


下図は一般に海外進出している日系企業の大まかなライフサイクルを示したものだ。多くの企業は成熟期に入った段階で躊躇することが多い。いわゆる転換点であり、大きな経営判断を求められる段階だ。日本本社に頼らず、進出国現地で独立して生き抜いている企業は多い。とかく日本本社は現地の経営手法にうるさいため完全に切れた方が現地資本との協調もはかどり経営の透明性が格段に向上するからという見方もある。米国に本社を置く日用品メーカーやスイスに本社を置く食料品メーカーのように早い段階からグローバル化をビジョンに挙げていた企業もある。

つまり、多くの企業が海外に進出する際の段階をまとめると次の5段階となる:

【創業期】

「海外展開を始めたばかりである」
進出先国での生産拠点の立ち上がりの段階。

  • ヒト・モノ・カネの三大経営資源が準備されているベースでは、まずは生産を軌道に乗せるが当面の最大の目標となる。
【自立期】

「海外の各拠点が力をつけ、自主独立経営が可能になってきている」
進出先国での生産も所在国政府からも民間からも評価され、独自に、製品開発ができる体制が整う段階。

  • ヒト・モノ・カネの三大経営資源も自前で調達でき、日本の本社からも一定の信頼を置かれている、または親会社からの影響が少なくなりつつある。
【成長期】

「海外展開は拡大している」
進出先国での生産が軌道に乗りだし、右肩上がりで生産量が増えていく段階。

  • 投資金額も同時並行して増えていくが、現地での問題が潜在的に多くあるのもこの成長段階である。
【グローバル期】

「グローバルな最適生産体制が確立している」
多くの欧米系多国籍企業に見られる形態で自立期からもう一歩進んだ段階。

  • 周辺諸国は勿論のこと、親会社の国を含めた地球規模の領域で、生産、販売行為を行い、現地国での株式上場も果たした世界企業である。
【成熟期】

「海外展開は量的な拡大から、質的な強化へと変わってきている」
進出先国での生産が一段落し、現地での評価も上がり、現地企業と同じレベルで国民からも受け入れられている段階。

  • 一層の現地化(経営幹部の現地人交替、現地調達の増加など)が投資側と受け入れ側の両方から要請される成長段階である。

筆者は多くの中小企業で海外進出をもくろむ会社を見てきた。2000年前後は大企業の製造業が進出し出した時期であり、関連会社や下請け、孫請け会社も我先に出て行った時期でもある。親が行くなら子供もついて行くという具合だが、その際、責任を持たない親がいたことも事実だ。


まずは海外進出の真の目的を知って欲しいことだ。企業のミッションやビジョンに関することで日本人が兎角忘れがちな部分でもあるが、実は、非常に重要な要素なのである。系列や下請けに近い企業は大会社について行くというのも決断かも知れないが、それでも親としっかり話し、ある程度の展望と裏取り(政府自治体や海外大使館などの情報を集める)をしておくことは必要だ。

一般に製造メーカーが海外に生産拠点を求める際、その進出の目的を考えてみよう。それこそ企業によって様々だが、しっかりとしたビジョンを持って出て行った企業はコアビジネスを忘れないため結構、成功している事例が多い。

以下に解説を試みる:

≪市場拡大型≫

特定の地域や国に投資し、その市場に対し製品やサービスを供給し、ビジネスの拡大を狙うグローバル化であり、市場に接近して工場を建設し、その拠点から供給するタイプで、近年増加している。最近では、生産のみならず、市場ニーズに適合するために開発機能も有した拠点が出現している。

≪効率追求型≫

これまでのいくつかの目的で進出した現地企業を垂直統合、水平統合などにより再編成し、規模と範囲の経済を志向し、競争力を向上する目的のグローバル化である。そこではリスクの分散なども行なわれている。グローバル生産シェアリング、素材から製品間での一貫生産化などが該当する。

≪コスト低減型≫

1980年代後半からの円高の影響を回避するための固定費、特に人件費が安い国や地域に進出し、そこで生産し、日本本社が逆輸入したり、その生産拠点から他の海外地域に輸出したりすることが行なわれる。このタイプは特に人件費の安い中国に進出した企業に多く見られ、1990年代に急激に増加したグローバル化現象である。

≪多国籍企業型≫

海外に直接投資し複数の国で国際的な経営を行なう企業は多国籍企業と呼ばれ、1950年代までに多くの米国企業が推進してきた。国連が名づけた超国籍企業(トランスナショナル・カンパニー)で、まさに国境を越えて企業活動を行なう、現在のグローバル企業体である。

≪原料確保型≫

日本が石油、鉄鉱石、アルミニウム、農産物など天然資源に恵まれないことから、それを安定的に低コストで入手・確保するために原産地に進出するケースである。石油化学、石油、鉄鋼、紙パルプなど市況品(コモデティ)産業に多く見られる。

現在は複雑怪奇となっているので挙げた以上の目的があり、また輻輳(ふくそう)しているかもしれないが、他が行くから俺も行くというのだけは避けたいものだ。というのは冒頭で述べたように受入国によっては、退散時に平気で過度な要求をしてくる地域もあるからだ。そして当然のことながら、途上国や新興国とっては、持続可能な企業進出であって欲しいと願うからだ。

昨今、サステナビリティという用語が独り歩きしているようでならないが、海外進出時には社会的責任行動につながる持続可能性を肝に銘じて欲しいものである。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

資料ダウンロード

お問い合わせ

お電話でのお問い合わせ 0120-818662 受付時間:平日 9:00-17:00

国際貨物専用ダイヤル 0120-18-9595

貨物追跡サービス

GOAL