第9回 アセアン・サプライチェーンの実態(続)

今年2015年末のAEC(アセアン経済共同体)の創設まで1年となった。関税撤廃で製品、資材、サービスの動きが活発になる一方で、人と貨幣の流れが円滑にいくか疑問である。これら6億人の巨大な経済圏の誕生に大きな期待と膨大な不安が渦巻く現状だ。前回に続き今月はサプライチェーンの観点から考察した論文から一部を抜粋し紹介する。

II. サプライチェーン、調達・物流に関して

ASEAN諸国での日系企業の生産拠点の競争的持続可能性確保には、サプライチェーンの視点が欠かせないということだ。ここでは、次の3つの質問を投げかけた上で回答を分析したので報告する。

Q3

貴社のASEAN諸国におけるサプライチェーン、調達・物流に関して、下の1から5までの程度に該当するものを選べ。

【選択肢】

5: 非常に同意する、4: かなり同意する、3: どちらともいえない、2: あまりそうでない、1: 全くそうでない

Q3S1

貴社はASEAN諸国への投資を長期的観点から考えている。

Q3S2

貴社はASEAN諸国への事業展開に購買調達物流部門は関与している(企画開発の段階でプロジェクトメンバーとして参画している)。

A3 回答結果は下図の通りであった。

ASEAN諸国におけるサプライチェーン、調達・物流に関して

平均値

Q3S1

貴社はASEAN諸国への投資を長期的観点から考えている

3.23

Q3S2

貴社はASEAN諸国への事業展開に購買調達物流部門は関与している
(企画開発FS段階でプロジェクトに入っている)

3.06

つまり、ASEAN諸国におけるサプライチェーン、調達・物流に関する姿勢について、ASEANにおける経済活動は長期的視点から考えようとする意識は若干みられる。しかしながら、そこでの調達のより深いコミットはまだ方向づけがないようだ。寧ろ、会社としての海外事業進出の方に関心があり、それらの事業を支えるサプライチェーン(供給連鎖・供給網)や資源・原材料・部材調達という生産プロセスへの配慮は十分に検討されていない。

Q4-1

貴社のASEAN内のサプライマーケット(供給源・供給基盤)開拓には下の各々の項目について、どの程度重要であると考えるか。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

Q4S1:

現地の社会保障、労働規制改革

Q4S2:

投資、為替、現地通貨などに関する金融規制改革

Q4S3:

輸送、通関などの物理的および法的規定改革

Q4S4:

製造活動の自由度拡大

Q4S5:

部品などの現地調達比率アップ

Q4S6:

現地人材の教育レベルアップ

Q4S7:

政治的安定性の向上

Q4S8:

文化の差異の解消、宗教等による社会的差別撤廃

Q4S9:

現地の消費市場の拡大

A4-1 回答結果は下表、下図の通りであった。

貴社のASEAN内のサプライマーケット(供給源・供給基盤)開拓には
下の各々がどの程度重要と考えるか。

平均値

Q4S1

現地の社会保障、労働規制改革

3.34

Q4S2

投資、為替、現地通貨などに関する金融規制改革

3.35

Q4S3

輸送、通関などの物理的および法的規定改革

3.56

Q4S4

製造活動の自由度拡大

3.54

Q4S5

部品などの現地調達比率アップ

3.44

Q4S6

現地人材の教育レベルアップ

3.70

Q4S7

政治的安定性の向上

3.74

Q4S8

文化の差異の解消、宗教等による社会的差別撤廃

3.36

Q4S9

現地の消費市場の拡大

3.49

最初に、ASEAN諸国内でのサプライマーケット開拓のための重要な要素を聞いた結果ではASEAN諸国に「現地人材の教育レベルアップ」と「政治的安定性の向上」を求めるというのが、概して高かった。これらの次としては、「輸送、通関などの物理的および法的規定改革」、「製造活動の自由度拡大」がきている。現地生産の主導するものとしては当然と思われるが、他の要素は、ほぼ同程度の重視度であった。

部品の現地調達比率アップについてはまずまずの回答だが、当該諸国のインフラと同様にサプライヤーが育っていないことが考えられる。つまり、ローカルサプライヤーの育成指導も今後視野に入れるべき課題であろう。

Q4-2

貴社のASEANでの事業活動における現地国のサプライチェーン整備(物流網・物流インフラ)について、下の各々がどの程度重要と考えるか。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

Q4S13

道路網整備

Q4S14

河川、海上輸送ルート構築

Q4S15

港湾、空港の整備

Q4S16

通関規制の緩和

Q4S17

海外ロジスティックス業者の進出促進

Q4S18

海外からの物流関連の投資への規制緩和

Q4S19

倉庫など保管設備の充実

Q4S20

現地での専門家育成

Q4S21

公的機関等の腐敗防止

A4-2 回答結果は下表、下図の通りであった。

貴社のASEANでの事業活動における現地国の
サプライチェーン整備(物流網・物流インフラ)について

平均値

Q4S13

道路網整備

3.42

Q4S14

河川、海上輸送ルート構築

3.34

Q4S15

港湾、空港の整備

3.48

Q4S16

通関規制の緩和

3.59

Q4S17

海外ロジスティックス業者の進出促進

3.39

Q4S18

海外からの物流関連の投資への規制緩和

3.36

Q4S19

倉庫など保管設備の充実

3.39

Q4S20

現地での専門家育成

3.42

Q4S21

公的機関等の腐敗防止

3.61

Q4に関して、ASEAN諸国でのサプライマーケット開拓の上での要因の解消のための方法論的整理をする。

前記S1からS9の項目を、その課題解決の方法的特性として次の3つの区分で考える。

① 制度基盤変革を伴う必要のあるもの
② 新たな投資などによって強化ないし解消するもの
③ 課題解決実践の仕方を工夫するもの

さらに、9つの要因は下表(4)-1のように整理できる。課題の大きさとしては制度的変革では政治的安定性の向上、諸規制の緩和、投資的解決では教育水準向上を重視する。

表(4)-1 ASEAN諸国でのサプライマーケット開拓の上での要因の解消のための方法論的整理

制度的基盤変革

能力(投資)

実践

1

 政治的安定性の向上 (3.74)

現地人材の教育レベルアップ
(3.70)

部品などの現地調達比率アップ
(3.44)

2

輸送、通関などの物理的および
法的規定改革 (3.56)

現地の消費市場の拡大 (3.49)

3

製造活動の自由度拡大 (3.54)

4

文化の差異の解消、宗教等
による社会的差別撤廃 (3.36)

5

投資、為替、現地通貨などに
関する金融規制改革 (3.35)

6

現地の社会保障、労働規制改革
(3.34)

次に、ASEAN諸国でのサプライチェーン整備項目の方法論的整理を試みる。調査結果では、同諸国のサプライチェーン関連の項目も全般的に課題を抱えている。港湾・空港の整備、物流業者の有無、通関規制、公的機関での収賄など不利な条件が挙がっている。回答パターンでは平坦さが顕著であると言える。課題解決の方法論的特性では制度基盤変革が重要度からいうと高い

表(4)-2 ASEAN諸国でのサプライチェーン整備項目の方法論的整理

制度的基盤変革

能力(投資)

実践

1

公的機関等の腐敗防止 (3.61)

港湾、空港の整備 (3.48)

海外ロジスティックス業者の
進出促進 (3.39)

2

通関規制の緩和 (3.59)

道路網整備 (3.42)

3

海外からの物流関連の投資への
規制緩和(3.36)

現地での専門家育成 (3.42)

4

倉庫など保管設備の充実 (3.39)

5

河川、海上輸送ルート構築
(3.34)

Q5

現地国サプライヤー開拓やサプライヤー育成にはどのようなことが必要だと思うか。下のそれぞれに関して、その重要性を右の重要度から該当するものを選んで答えよ。

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

Q5S1

情報収集

Q5S2

優秀な人材確保

Q5S3

人材育成

Q5S4

現地活動のためのコンサルタント獲得

Q5S5

現地での金融支援者獲得

Q5S6

インフラ(社会的基盤)整備

Q5S7

児童労働規制、賄賂禁止などのコンプライアンス対応

Q5S8

語学力アップ

A5 回答結果は下表、下図の通りであった。

現地国サプライヤー開拓やサプライヤー育成には
どのようなことが重要だと思うか。

平均値

Q5S1

情報収集

3.92

Q5S2

優秀な人材確保

3.88

Q5S3

人材育成

3.92

Q5S4

現地活動のためのコンサルタント獲得

3.44

Q5S5

現地での金融支援者獲得

3.24

Q5S6

インフラ(社会的基盤)整備

3.69

Q5S7

児童労働規制、賄賂禁止などのコンプライアンス対応

3.57

Q5S8

語学力アップ

3.78

本質問では、現地国サプライヤー開拓、サプライヤー育成に必要な項目の重視度を課題として考えた。課題として、情報収集、優秀な人材確保、人材育成、語学力アップなどが重視されていると出た。要するに、「人の行動の質を左右すること」に関わる課題とみられる。

特徴的なことは、課題として認識する内容が回答者毎に類似しているということである。その意味で、日本企業の課題は共通的かつ基本的であると言えよう。また、よくよく見ると、人材強化、人材育成に関わる課題、つまり人的資源の形成がその中で際立っているようだ。また、CSR社会的責任の側面から当該サプライヤー特にローカル企業の組織運営の監査、業務チェックをすることも今後は重要になってくるだろう。

課題の方法論的特性では、実践を如何におこなうかに依存する課題が多い。人材、情報的支援体制を強化することがより重要性において高くなっていると言える。

表(5) 現地国サプライヤー開拓、育成に必要な項目の重視度

制度的基盤変革

能力(投資)

実践

1

児童労働規制、賄賂禁止などの
コンプライアンス対応 (3.57)

人材育成 (3.92)

情報収集 (3.92)

2

インフラ(社会的基盤)整備
(3.69)

優秀な人材確保 (3.88)

3

語学力アップ (3.78)

4

現地活動のための
コンサルタント獲得 (3.44)

5

現地での金融支援者獲得
(3.24)

まとめ

質問A3~5の回答結果を総合すると、 ASEAN諸国での生産拠点の競争的持続可能性確保にはサプライチェーンの視点が欠かせないとなる。

ここで少しおさらいすると、冒頭に挙げている持続可能性とは、英語表記でsustainabilityとなるが、人間活動、特に文明の利器を用いた活動が、将来にわたって持続できるかどうかを表す概念である。この概念は「ブルントラント報告」(国連環境と開発に関する世界委員会、1987年)で提起されたことで有名になったが、経済や社会など人間活動全般に用いられ、特に環境問題やエネルギー問題について使用されてきた。今日では、環境対応だけでなく企業経営の健全性を示す尺度の一つとしてサステナビリティ(持続可能性)が注目されている。

本稿での最初の質問は、貴社のASEAN諸国におけるサプライチェーン、調達・物流に関して、二つ目は、貴社のASEAN内のサプライマーケット(供給源・供給基盤)開拓について、最後の質問として、現地国サプライヤー開拓やサプライヤー育成について、選択肢を挙げて聞いた。

企業が持続可能に海外、ここではアセアン諸国内で操業するということは現地でのサプライチェーンを充実することが求められよう。供給市場をしっかり調べ上げ、または開拓し、育てることも必要となってくる。日本国内では全く必要のない規制や慣習が待ち受けているが、海外で成功するには、これまでのように短期的に利益を上げることではなく、将来に亘って生産活動、また自社の事業が存続できるように考えていく必要がある。

そのためには、アセアン内での顧客、サプライヤー、株主、従業員などのステークホルダーに対して継続的に企業の価値を提供し続け、企業の利益が社会貢献に繋がることを意識した経営を実施することが大切であると思料する。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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