第8回 アセアン・サプライチェーンの実態

日本企業は今後海外、特にアセアン諸国に製造拠点を設けてグローバル調達を進めていくと思われます。生産活動の中で自社の利益を越えて、現地国の持続的発展に貢献することが最終目標で、かつWIN‐WINの行動ができ、当地の経済発展に貢献できると考えます。

その中で、日本政府の指導するODAの活躍は日本企業にとって不可欠のものです。民間企業の動向を調査する前に、国際協力機構(JICA)は、どのような戦略のもとでアセアン諸国のインフラ支援をし、民間企業の現地国での生産操業に、どのように側面的に援助しているのかを明らかにすることは重要であります。アセアン諸国の現地に根付いた企業が持続的に発展していくためには何が必要であるかを考えてみましょう。アセアン諸国での生産拠点の運営には、サプライチェーンの視点が欠かせないと思うわけです。特に、チェーンの上流にある「仕入れ機能」は、QCDを踏まえたプロセスが大切なことは言うまでもありません。そのためには現地のサプライヤーを育成する政策、周辺諸国から原材料や資材を円滑に取得する機能、戦略的な物流体制の構築も必要となってきます。これらのサプライチェーンプロセスを効果的、効率的に運営していく中で地域の活性化が生まれるのです。

さらに現在のアセアン諸国が持続的に発展し、新・新興国また後進国へ刺激を与えることになることは十分に考えられます。アジア発展を足掛かりに他の発展途上の国々に模範を示すことはグッド・プラクティスになることでしょう。

このところ、BOP(base of pyramid)ビジネスが脚光を浴びてきていますが、この核心は両者がともに発展することだと思います。でないとグローバル規模での持続的成長は見込めないからです。

一般にグローバル経済では資源だけでなくヒト・モノ・カネ及び情報という要素を貴重な潜在的成長源として捉えると日本企業が世界で活躍できる素地はさらに多くあると考えられます。

こで少し復習です。開発途上国の社会・経済の開発を支援する経済協力のうち、政府が開発途上国に行う資金や技術の協力を政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)と言います。JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、すべての人々が恩恵を受けるダイナミックな開発というビジョンを掲げ、多様な援助手法のうち最適な手法を使い、地域別・国別アプローチと課題別アプローチを組み合わせて、開発途上国が抱える課題解決を支援しています。

   語彙 意味
 1  東西経済回廊 ベトナムのダナンからラオス、タイを通過し、ミャンマーのモーラミャインまでの全長1,400kmのインドシナ半島横断道路が完成した。JICAは回廊東側の入り口であるダナン港、山間部を貫通させたハイヴァントンネル、ラオスの中部から南部を通過してベトナムとタイをつなぐ国道9号線等の重要なインフラを整備し第2メコン架橋の建設により回廊を完成させた。
2 南部経済回廊 ベトナムのホーチミン、プノンペン、バンコクとダウェイ(ミャンマー)をつなぐ経済回廊。JICA支援によってベトナムの入り口であるカイメップチーバイ港は大型船が入港できるよう整備された。これにより域内貿易が増大すると期待されている。
3 ASEAN共同体 3つの共同体(安全保障、経済、社会・文化)を基に設立されるもので2015年完成が合意されている。中核をなすASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC)は、(1)単一市場・生産拠点、(2)競争力のある経済圏、(3)均整のとれた経済発展、(4)世界経済への統合を体現するものとして定義された。
4 ASEAN連結性

Master Plan to ASEAN Connectivity

2015年のASEAN共同体を実現するための重要なプロセス。物理的連結性、制度的連結性、人的連結性から構成される。経済の長期安定的な成長のためには投資を奨励し技術発展を促すような制度が必要である。経済、制度の変化は継続的、連続的なものであり、経路依存的である。
5 物理的連結性

Physical connectivity

インドシナ半島内の交通網を整備することによる物流の改善で、東西・南部経済大動脈構想の実現、海洋ASEAN経済回廊構想の実現を意味する。
6 制度的連結性

Institutional connectivity

税関協力”Asia Cargo Highway”、国際標準化と基準認証、中小企業・裾野産業の振興、法整備支援、知的財産権保護を意味する。
7 人的連結性

People-to-People connectivity

日本とASEAN間の大学間ネットワークを活用した人材育成・研究能力向上、産官学の連携、また日本センターの設立を意味する。特にアセアン工学系高等教育ネットワークはASEAN大学連合の工学分野を担うサブネットワークとして2001年4月に設立された。
8 海洋ASEAN経済回廊 もう一つの課題は海洋の経済回廊の実現である。ベトナムのハイフォン港、カンボジアのシハヌークビル港、インドネシアのタンジュンプリオク港など、ASEAN各国の主要港湾の整備に加え、従来のコンテナ船だけでは十分に対応できない路線を結ぶRo-Ro船ネットワークの構築に対する支援を開始した。

昨年の研究では、ODA(政府開発援助), JICA(国際協力機構)に関する一般的な質問を企業に対して行いました。これは日本国民がどれだけ援助実態を知っており、民間事業が如何にこれらの活動を役立てているかを知るためです。最初に、サプライチェーンをより効率化させるキーワードを三つ(リードタイム、マーケット創造、コラボレーション調達)挙げた上で次の質問をしました。

I. ODA JICAの活動に関する一般質問
日本政府の援助体制と実態について

Q1

ODA(政府開発援助), JICA(国際協力機構)に関する質問にお答えください。その程度に関して、5段階から該当するものをお選びください。

【選択肢】

5: 非常に詳しい、4: かなり知っている、3: どちらともいえない、2: あまり知らない、1: 全く知らない

Q1S1

日本のODA拠出額についての知識をお持ちですか。

※因みに2010年の日本の拠出額は世界5位でした。

Q1S2

JICAはASEAN共同体を実現するための「ASEAN連結性マスタープラン」に対していかなる姿勢を示しているか知っている。

Q1S3

ASEAN連結性マスタープランの内容を知っている。

Q1S4

上記の「ASEAN連結性」には、3つのテーマが含まれています。

それは物理的連結性、制度的連結性、人的連結性ですが、それらの内容をご存知ですか。

Q1S5

JICAの言う「物理的連結性」には陸の回廊と海の回廊があります。前者の内、東西経済回廊と南部経済回廊の役割をご存知ですか。

Q1S6

上記の内で後者の海の回廊は「海洋ASEAN経済回廊」と呼ばれますが、日本政府の支援取り組みについてご存知ですか。

上図の通り、各質問項目に関する知識には濃淡がない。各質問項目の回答平均値は、1.60で非常に低い。(1が全く知らない、5が非常に知っている)したがって、JICAやODAの活動に関する日本企業の知識はほとんどないと言えるのです。縦軸を最高点の半分で作り直してみましょう。

Q2:

「制度的連結性」、「人的連結性」に関する2つの活動の重要性について、右の重要度に該当するものを選んでください

【選択肢】

5: 非常に重要である、4: かなり重要である、3: どちらともいえない、2: あまり重要でない、1: 全く重要でない

Q2S1:

「制度的連結性」の強化について、国際標準化・基準認証、中小企業・裾野産業振興、法整備支援、さらに知的財産権保護という、いわゆる「ソフトインフラ整備支援」活動を重要と思いますか。

Q2S2:

「人的連結性(人と人との連結性)」の強化について、JICAは人材育成とASEAN・日本間のネットワーク構築を全面支援しています。これらの活動を重要と思いますか。

Q2S3:

貴社は調達活動において、ODA及びJICAの活動を活用することが重要と考えていますか。

上記質問Q1において、JICAやODAに関する関心は低い反面、そこでうたわれている「連結性」概念そのものの重要性はある程度は同意されていることがわかりました。因みに、これら3つの質問項目の回答パターンを見ると、ほぼ同一回答パターンとして現れているので、回答者毎のこれら質問項目に関する判断には差異が認めがたいことになります。また、これら3つの質問への回答値から判断すると、両連結性は同程度重要と考えられますが、JICA等との連携は何とも言えないという姿勢であるのです。換言すると、JICAとの連携意義は明確には認められていないという結果でした。

たった二つの質問結果から日本政府の援助実態を次のようにまとめました。

アセアン諸国での生産拠点の競争的持続可能性を確保するにはサプライチェーンの視点が欠かせません。サプライチェーンは供給連鎖とも訳され、個々の企業の役割分担にかかわらず、原料の段階から製品やサービスが消費者の手に届くまでの全プロセスの繋がりを意味します。生産や調達などの体制に効果的、柔軟に対応することで、余剰在庫の削減など適正な生産体制を整えることができるとされています。研究会において、ASEANなど現地国の地域に根付いた企業が持続的に発展していくために何が必要であるかを議論した際に、事業活動の競争的持続が鍵であり、それを確保するためには政府の支援が必須であることがわかりました。と同時に社会基盤インフラストラクチュアの重大さを確認したのです。

卑近な例ですが、カンボジアでは、豊かな穀倉地帯を3000トン級の船が通れる大きな河が流れています。しかし、そこに架かっている橋は、中ほどで途切れているのです。それがカンボジア・トンレサップ河に架かる通称“日本橋”の姿でした。この橋は、日本の協力で1966年に完成したものです。プノンペン市の中心部からやや北側に位置し緑豊かな対岸とを結ぶ主要な道として活躍していたのですが、大事な輸送路ゆえに内戦時に爆破されたのです。同国の復興支援を協議する初の会合で「日本橋をまず修復したい」と、日本側に要請し、それを受けてカンボジア駐在の今川大使(当時)は即座にこれに応じたといいます。こうして日本の無償資金協力が始まったのです。的を得たインフラの整備は、確実に国を復興させます。今も橋のたもとに翻る両国の国旗が、カンボジアの人々の日本への気持ちを表してくれているようです。

このようにサプライチェーンプロセスを構築する中で社会インフラ、物理的基盤がしっかりすれば、これらの地域が活性化し、それにより日本企業と現地企業との双方向(Win-Win)の持続的競争力が確保されます。そのうえで、将来性のある発展が可能となると考えています。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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