特別編 パリ新聞社テロ事件

フランスのパリ政治風刺雑誌の本社に銃を持った2人の男が乱入

2015年1月7日、筆者が海外特派員を務めるフランス雑誌社の編集長から電話が入った。かなり慌てふためいていたようで日本も真夜中のため事情だけを聴き電話を切った。翌朝のニュースでは大きく取り上げられていた。イスラム武装勢力が事前に示唆していた通りのことが起こったわけだ。この雑誌社は調達購買サプライチェーン関連の特殊な産業誌であるが事務所が今回の現場に近いため他人ごとではなかったようだ。今日も朝からフランスラジオでしきりに現場の様子が話されていた。

マスコミ報道によると、日本時間の7日午後7時半ごろ、フランス・パリにある新聞社の本社に武装した男らが押し入って銃を乱射し、警察官と銃撃戦になった。フランスの警察によると、これまでに新聞社の記者や従業員など10人と警察官2人の合わせて12人が死亡、怪我人は8人だとしている。

また、フランスの通信社が警察の話として伝えたところによると、襲撃した男たちは「預言者の敵討ちだ」と叫んでいたらしい。現地入りしたフランスの大統領は「これはテロ行為だ」「自由を尊ぶフランスでは断じて受け入れられない行為だ」と述べて、捜査に全力を挙げるよう指示したとのこと。

色々なフランス人と話したところ、現在パリ市内には北アフリカ系(マグレブ)のフランス移民が多いが、殆どの人が安定した職を見つけられないでいるのは事実で政府も黙認している状態だ。就活でも氏名でアラブ系またはアルジェリア系とわかるため、米国のように出身地を聞くことができない採用インタビューとも異なる。米国人は、ほぼクリスチャンネームを付けているため氏名だけでは民族や出身地がわからない。考えてみるとマグレブの人は氏名を大切にしているため、仏国内ではファーストネームだけで識別できるという。最大の問題は、フランスでは、米国を中心に広がってきたダイバーシティ(多様性人材の活用)が全く機能していないことだろう。筆者が毎年出講しているESSEC(パリ商科大学院:いわゆるビジネススクール)はパリ郊外にあるが、郊外電車に乗って1時間くらいかけて通勤する途上でマグレブが多く乗っている。パリから郊外の工場へ働きに行く通勤者であろう。彼ら、彼女らはまだいい方で職がない人が圧倒的に多い。アルジェリア系移民の元有名サッカー選手の両親は、アルジェリア戦争が勃発する少し前の1953年にアルジェリアからパリへ移住。1968年にパリからマルセイユへ引っ越した。そこで4男1女の5人兄弟の末っ子として生まれた元サッカー選手は、日本のサッカー漫画の影響でサッカーを始め、友人とのストリートサッカーでサッカースキルを磨いた。1990年代後半から2000年代前半にかけて「世界最高のサッカー選手」と称えられ1980年代に活躍したフランスの元サッカー選手と共にフランスにおける歴代2大スター選手とされる。

マグリブ(Maghreb)

リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北西アフリカ諸国の総称。

このようにマグレブでも例外中の例外という有名人はいるが、殆ど多くの一般人は無職で信教・イスラム教に走ることが多い。

もう一人はフランスの俳優で、父親はアルジェリアからの移民である。16歳で学校をやめて工事現場で働き始めたが、両親の離婚をきっかけに生活は荒み22歳で刑務所に入っている。その後、俳優学校で演技を学んだあと、1994年にフランスの監督の映画に端役で出演し、監督の目にとまることになるというシンデレラボーイだが、多くの有罪判決を受けた挙句、2009年に殺傷事件を起こし、今はもう映画界から消えている。

フランスは、これまで労働力として旧植民地出身の移民を積極的に受け入れてきた。就労を目的とする移民の受入れは、1970年代半ばに停止したものの家族の呼び寄せは認めていたため、その後も移民の数は増加し続けた。そこでの政策の柱は移民をフランス社会に同化させることとした。しかしながら、アフリカ大陸出身者やイスラム教徒など異なる文化・風習・宗教を持つ移民をフランス社会に同化させるために政府が取ってきた政策には、ライシテ(Laicite=非宗教政策、政教分離策)という概念が根底にある。例えば国や地方自治体は、宗教施設の建設などへの補助金の支出が禁じられている。寄付金不足から信仰のために必要なモスクの建設ができないフランスのイスラム教徒たちの間には、不満の声があがっていた。さらに、2004年の秋からイスラム教徒の女性が学校でスカーフを被ることを禁止するなど、同化を超えて「フランスの価値観の押し付け」と感じられる政策のあり方への批判も強まっていた。

建前で、平等主義を謳うフランスでは、合法的な移民であればフランス人と全く同等な権利を有するとされる。しかし現実には、前述したとおり、就職の際に提出する履歴書で、その名前や写真から移民と推定される場合が多く、書類選考すら通過しないことも少なくないといわれる。また、ZUS(zones urbaines sensibles:様々な社会問題を抱える地区)に居住しているというだけで就職は困難という現状もある。こうした移民系家庭出身者に対する差別はグランド・ゼコールを修了、あるいは修士号を取得した高学歴者でさえも、全く例外ではないのだ。ZUSにおける15歳から59歳人口の失業率は、平均で20.7%に達している。これは、フランス全体における平均の2倍以上の水準だ。

移民が多数居住する低所得者用集合住宅のある大都市の郊外では、失業者があふれ、その結果、治安が更に悪化するという悪循環に陥る。この悪循環こそが、現在のフランスが抱える「郊外問題」といえる。こうした郊外問題への対応が不十分なまま、治安回復という名のもとで強化され続けた不法移民の取締りなどに対し、蓄積していた日頃の不満が一気に噴出したのが、これまでの暴動だった、しかし今回はイスラム国の台頭という意味で状況は異なり、またヨーロッパ全体に広がる気配もする。

ここで米国事情を少し復習してみる。米国では企業の各部署、職種、地位ごとに人種別、性別の構成を把握し、全従業員の中に女性及び少数民族が占める割合をつかみ、この割合と当該企業が存在する地域社会の就労人口中に女性及び少数民族が占める割合を比較し、「××年までに女性や少数民族を○○%採用する」、または「△△%昇進させ、企業の周辺の就労人口の比率にほぼ一致するようにする」というような目標を設定し、目標達成のための努力を推奨している。少数民族は黒人、スペイン系アメリカ人、東洋人、アメリカンインディアンなどに分類される。ここで注意すべきは積極的是正策の作成が必要となるのは

    1. 裁判所が雇用上の差別を行なった雇主に対して積極的是正策の作成・実行を強制する場合
    2. 大統領命令第11246号が連邦政府に財貨あるいはサービスを提供する者に対して要求する場合
    3. 州法または地方自治体の条例が州または地方自治体に財貨またはサービスを提供する者に対して要求する場合

であって、一般的にすべての雇主に対して一定割合以上の少数民族や女性を雇用することを義務付けている連邦法も州法も存在しないということである。しかしながら、積極的是正策を講じておくと従業員から差別の申立があり、雇用機会均等化委員会や州の監査機関の調査があった場合、差別の事実を否定するのに有利な材料となるので、法律上要求されていない場合でも積極的是正策を作成することを検討すべきであろう。

次に実際の連邦法を見てみよう。以下の通り7法が存在する。

  • 連邦雇用差別禁止法 (Federal Employment Discrimination Acts)
    1. Title VII of the Civil Rights Act(公民権法第7編)
    2. EPA: Equal Pay Act(同一賃金法)
    3. ADEA: Age Discrimination in Employment Act(年齢差別禁止法)
    4. ADA: Americans with Disabilities Act(アメリカ人障害者法)
    5. Executive Order 11246, 1965大統領命令第11246号1965年(後に大統領命令第11375号で一部修正されている)
    6. Uniform Guidelines on Employee Selection Procedures, 1978(被用者選択プロシージャーの統一ガイドライン1978年、及びセクハラの解釈ガイドライン1980年)
    7. Family Medical Leave Act(家族医療休暇法)

詳しく見ると

Bona fide seniority and merit system(真正な先任権制度)というものがあり、これは、真正な先任権制度のことで、「勤務日数が他の被用者よりも長い被用者を優遇した」とする抗弁は有効となる。例えば、ある女性が結婚退職し、その後再度雇用されたとき、新規採用者として扱われたケースでは、その訴えが無効となったというもの。しかし、真正な先任権制度は差別主義の温存という批判も一方である。

もう一つはProfessional developed ability test(能力テスト)であるが、能力テストによる採用は抗弁として有効である。しかし、統計による差別の判断を下すので、職務遂行能力と試験の関連性が高いことを立証することも必要となる。この抗弁は差別的インパクトを生じやすく、抗弁は出来ても敗訴する可能性が高いとされている。

以下に米国で多くの日系企業が直面する喫緊の問題を取り上げてみよう。

参考:採用決定のためのテストインタビュー

採用を決定するに当り、職種に関係のないテストを受けさせる(例えば、秘書に数学の試験を受けさせるなど)ことも一般に学力の劣る少数民族を排除することにつながるので許されない。採用のための面接においても採用申込書に記入を求めてはならない事項について問いただしてはならない。相手が自発的に話す場合でも深入りしないことが肝要である。

伊藤迪子〔1991年〕『アメリカ進出企業の法務マニュアル』有斐閣

簡単にまとめてみると次の4つに分類される:

 BFOQ:Bona Fide Occupational Qualification

 真正な(ラテン語)職業資格のことで、「公認会計士でないと監査証明に署名できる役職につくことができない」といった抗弁は有効である。

「妊婦にとっては危険だから採用を拒否した」といった抗弁は無効である。

Disparate treatment「差別的扱い」

一人が他の人と異なった扱いを受ける場合に発生する。例えば、ある求職者が受けた面接や試験内容が他の求職者と違った場合はこの差別的扱いが発生したことになる。こうして違法な差別が現存する。マネジャーは志願者が職務関連の機能を果たすことができるかどうか心配な時、マネジャーはすべての志願者に同じ職務関連機能を求めなければならない。

 

 Adverse impact

 逆効果、または差別的効果」は、見かけは中立的な雇用慣行の結果が保護されるべきグループに逆効果を与える場合に発生する。

例えば、口コミでは人事採用は中立であるように見えても、実態は、全員白人、全員男性の職場は女性や非白人にとって逆効果が働いたと判断される。こうして違法な差別が現存する。

 Disparate impact(差別的効果

ある処置に差別的意図がなくても結果的に差別的効果を生んだ場合は、違法となる。

例えば、テストや学歴によって採用した結果、白人の男性が多い職場となったケースでは差別的効果があると見なされた。従って、原告は差別的効果で差別を立証できる。

米国で新たに起業するとか、別会社、子会社、合弁会社を設立する場合、ヒトの採用が最初で最大の難関だ。日本人人事担当者や他部門から派遣された人事に疎い管理職が犯すのは、インタビュー・面接時での質問事項である。

米国企業におけるQuestions in the interview process

スキルテスト
Skills’ testing:

スキルテスト(技能試験)は基本的な能力を証明するのを助ける。

身体テスト/身体検査
Physical tests/physical exam :

ほとんどの購買業務にとって、このテストはほとんど関連がない。

 
 適性試験
Aptitude testing:

適性試験は志願者の知識レベルを決定するのを助ける。

 国際関連の技能試験
International-related skill tests:

職位が海外駐在または企業の本社所在地以外の国での取引が頻繁にある場合は、言語スキル、ビジネス慣行の知識、特定の国や地域の法的要件の試験が適切であろう。

個性/知的水準の試
Personality/intelligence testing:

この試験は広範囲に使われるが、職務との関連は稀である。

他のテスト(薬物使用の有無、誠実さなど)
Other tests, such as drugs, or honesty tests:

近年はこの種のテストが行われている。

話をフランスに戻そう。

フランス政府は大企業による雇用差別への対策も厳しく取り締まってきているが、同時に移民の規制も強化している。

現下のフランス経済悪化は、フランスの移民問題と密接に関係していると言っても過言ではない。日本人がフランスと聞いてイメージするような白人は、決して多くはいない。北アフリカや中央アフリカ、トルコ、南欧など、外国から移り住んできた人を親に持つ子供の割合が、18歳未満で半数を超えている。なぜ彼らと治安がつながるのか。それはフランスの移民政策の歴史が背景にある。

フランスは19世紀後半から出生率が低くなり、第二次大戦後の経済成長期に特に労働力を必要とした。その結果、大量の移民を受け入れる政策を取ったが、後の経済停滞により、彼らや彼らの子供の世代の仕事は減ってしまった。そんな彼らの一部が、不幸にも犯罪に手を染め、さらにイスラム殉教という形で無差別殺人が起こっている。

移民審査の厳格化

移民の規制強化策としては、家族呼び寄せやフランス国籍所有者との結婚による国籍取得、留学生受け入れなどの審査を厳格化する見通しである。現行では、1年以上フランス国内に滞在した移民は家族(夫や妻、子供)を呼び寄せることができる。この期間を2年以上に延長する。また、事実上黙認されていたアフリカやアラブ系の一夫多妻家族の呼び寄せに関する審査も厳格化する方針を示した。さらに、フランス国籍所有者と結婚した外国人は、2年以上(フランス)国内に居住すれば同国籍を申請できる現行制度を改正し、必要居住期間を4年間に延長することも打ち出した。これは、国籍取得目的の偽装結婚を減らすことを狙ったもの。留学生に関しても受け入れ審査の強化が盛り込まれた。

雇用差別対策

政府は、移民の若者を出身国や名前などを理由として雇用差別した企業に最高25000ユーロ(約350万円)の罰金を科すことを発表した。この制裁の権限は2005年6月に差別問題などを調査、審議するために発足した独立政府機関「差別対策・平等促進高等機関(Haute Autorite de Lutte contre les Discriminations et pour l'Egalite)」に与えられる。企業に対する抜き打ち検査を強化し、出身や居住地区を理由に若者を採用しなかったことが判明した場合、企業に罰金を科し、雇用機会均等を促進することを目指している。また、名前や住所を伏せた匿名履歴書による選考を実験してみることも表明した。

かなり前から、フランス人でさえ就職難であるため、フランス政府は「移民流入の制御」「選択移民の促進(国が必要とする有資格労働者や才能に恵まれた人々や学生など)」「移民の統合(国を支配する原則に対する実質的な尊重やフランス語の十分な知識)」を柱とし、新たな移民は抑える政策を取っている。

少子化と高齢化が急速に進む日本も将来的に移民を受け入れることになるかもしれない。移民の功罪を十分に知ったフランスの経験は、今後の日本にとって参考になる点も多いはずと思料する。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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