第6回 イスラム国?が物流網を寸断している

最近、中東でイスラム国(略称:IS)という語句をよく聞くようになった。石油危機が数々あったにも拘らず、もともと日本人にはあまり関心のない中東諸国だが、筆者がフランスに長くかかわっていた頃は現地マスコミで中東の記事が出ない日はなかったことを記憶している。それは今も変わっていない。

調べたところでは、この「イスラム国」というのはイラクとシリアで活動するサラフィー・ジハード主義組織であるらしい。2014年6月、カリフ制イスラム国家の樹立を宣言し、イラクとシャームのイスラム国から改称したそうだ。国家と自称するものの、日本・欧米諸国などに留まらず、周辺のスンニ派イスラム教諸国からも国家として承認されていないほか、「イスラム国」という名称への批判が多い。ヨーロッパの線引きにより勝手に作られた現在の中東のイラクやシリアの国土を否定し、武力によるイスラム世界の統一を目指しているのが実態らしい。

この勢力が多くの資金、人材、兵器・物資を世界中から集めて影響力を拡大しているのは実に恐怖だが、今や産業界にも負の影響を与えつつあることが分かった。いわゆるサプライチェーンの寸断である。これまでもグローバルリスクに関して、テロや自然災害、人的ミスによる事故など国内でも多くの災害を経験してきたが、日系企業が海外進出を懸命に進めている中では、今回の新しい国?の突然発生は最も警戒すべきことの一つだろう。

サプライチェーン

そこで昨年の我が国に関係のある中東の事件を思い出してみよう。

  1. 大手建設会社のプラント建設

2013年1月16日の早朝、アルカイダ系の武装勢力が、アルジェリア東部、リビア国境から60km西にあるイナメナスから西南およそ40kmの位置にある天然ガス精製プラントを襲撃した。襲撃された施設はアルジェリアの国営合弁企業によって経営されており、建設には化学プラントの建造に実績のある日本の大手建設会社も参加していた。同地域のガス年間生産量は90億立方メートルあり、アルジェリア国内でのガス生産の10%以上を生産するものであった。

  1. ビジネスチャンスと海外進出リスク

アルジェリアの武装集団による邦人拘束・殺害事件をきっかけに、海外進出企業のリスク管理が改めて問われ、現地の日本企業に重い課題を突き付けた。縮小傾向にある日本経済は、海外に成長の道を探るしか再生復活が見込めない。しかし、ビジネスチャンスをつかむためには大きなリスクを取らざるを得ないという厳しい現実がある。そして、リスクは、大企業、中小企業を問わずに襲いかかるものだ。最初からあきらめたら、ビジネスチャンスどころかリスクだけを取ることになりかねない。

筆者はとある講演会でリスク軽減について質問されたことがある。すかさず答えたのは、欧米の先進企業から必要なエッセンスを学び、できる範囲で取り組みを始めることだ。政府のやり方を批判しているのではないが、民間で海外へ出ていくには自己防衛や武装が時には必要だと考えたまでだ。武装というと物騒に聞こえるが、これもまた日本的発想でマインドセットが必要な部分だろう。遊びの海外旅行で、事故が起きた時、事件に巻き込まれた時、日本国大使館は十分に面倒を見てくれたであろうか。こういうリスクを承知の上で自分の体は自分で守ろうという当たり前のことができないと海外進出の資格はないと見たい。

アルジェリアの人質事件は、テロの脅威などが特に高い危険な地域で操業する日本企業の安全対策については、企業の取り組みだけでは限界があることを浮き彫りにしたと言える。 襲撃されたプラント施設を運営しているのはイギリスの大手石油会社とアルジェリアの国営企業だった。こうした状況の中で、一企業が情報収集によりテロの脅威が高まっていることをある程度察知できていたとしても、その対策には限界があったことは確かだろう。

但し、大手石油会社やアルジェリアの国営企業と日常的にセキュリティ情報を共有することは十分にできていたか、アルジェリア政府に対して警備の強化を要請することができなかったのかといったことなど、これらも済んでしまってから言うのでは遅いもので民間ベースで海外の有識者やリスクのエキスパート組織、欧米政府関連の会社と密に意思疎通を図れる体制を整えてから出て行って欲しい。

項目

内容

1

事件・事故名

アルジェリア人質事件

2

場所・地理

アルジェリア民主人民共和国

3

企業

大手建設会社

天然ガス精製プラント

4

サプライチェーン課題

建設資機材の輸送

5

キーワード

  • テロの脅威
  • 日本企業の安全対策
  • 企業の取り組みの限界
  1. 中東でモノの流れが遮断

主題に戻すと、これまでトルコとアラブ諸国を結ぶ物流網に異常なことが起こっている。つまり、トルコからイラク、シリアを経由しサウジアラビアをはじめとする湾岸主要産油国に向かう重要な交易路があった。トルコはこの中で旗振り役となって中東域内経済を後押ししてきた。トルコ国際運輸組合では事件前に2,200台/日のトラックが今では1,500台にまで落ちているという。原因は言うまでもなく治安の悪化である。

トルコの対イラク輸出では7-8月は前年同期比40%も減少している。加えてシリアの混乱も逆風となっている。反政府武装勢力の内戦に加えてイスラム国の攻撃もあるからだ。陸路が駄目なら水路があるので、一部は船でエジプトのスエズ運河を通過してサウジアラビアに向かうが、当然コストは跳ね上がる。それでも、日本が経験した大震災の時のように事業継続を活かせれば直ぐにではなくとも徐々に解決策は見つかるはずだ。この戦争は恐らく長く続くだろうから、トルコが交易の重要性とサプライチェーンを確保する意志があるなら、日本政府や企業にソフト支援を求めることができるだろう。サプライチェーンの寸断は、最も恐ろしい経済危機をもたらす根源なのだから。 

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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