特別編 グローバル化の是非

今年の6月、衝突事故などが起こった時に、ドライバーや助手席の同乗者などの身を守るために取り付けてあるエアバッグ。この重要な安全装置が衝突時に正常に膨らまず、部品が破裂して出火する恐れがあるとして、自動車メーカー6社が、計80万8500台ものリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。同省によると部品は助手席のダッシュボード内にあり、衝突時に金属ケース内にガスを発生させ、瞬時にエアバッグを膨らませるという。しかしガスを発生させる薬剤の製造工程などに不備があると、作動時の異常燃焼で金属ケース内の圧力が高まって破裂する恐れがある。

その部品を製造したのは自動車部品メーカー大手で、2000年8月~2005年12月の期間に製造されたもの。当時のリコール対象は、計25車種。海外販売は約211万台になるため不具合を届け出た自動車メーカの分と合わせ世界で約800万台に達したという。自動車メーカによると、破片が体に当たるなどして同社製の自動車で米国で死亡事故が2件起きたようだ。

自動車部品メーカーは1980年代より海外進出を開始した。現在、日本を含むアジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカの20カ国に50を超える開発・生産・販売拠点を有し、各国にある拠点を「日本を含むアジア」、「米州」、「欧州」の三地域に分けた運営体制を敷いた。いわゆるグローバル三極による運営体制を敷き、各地域内で顧客ニーズの的確な把握とタイムリーでスピーディな対応するミッションを実行してきた。今回の問題が起こったのは、海外拠点を急増させていた時期だ。記憶に新しいのは、20009~2010年に相次いで起こった自動車メーカの品質問題で、原因の一つは、急速な海外展開であったとされた。

一概には言えないが、今回の問題によって、グローバル化を急ぐ日本企業の品質管理の重要性と海外での品質保証体制の難しさを改めて痛感させられた。

確かに現下、日本企業にとってグローバル化は喫緊の課題だろう。猫も杓子もというわけではないが、日本の会社、日本人は各々同じことをしないと気が済まない。少しでも違ったことをすると異様に見えるためだろうが、私はこれこそがグローバル化にほど遠い現象と思う。

先日開催した弊法人年次大会(第16回)でもグローバル経済、サプライチェーン経営について取り上げ様々な角度から議論した。海外展開、国際化、世界視点など80年代から常に耳にしてきた用語であるが、近年の「グローバル」にはこれまでとは違った概念、含意がある。てっとり早く理解するには文字を読み解くことで、第一義は、光源を包み、光を和らげるのに使われる球形の照明器具のことだが、the globeは地球である。これは地球環境に通じるもので、環境保全や地球上に住む人々の地域・社会、人権、安全・衛生、倫理、そして最近、マスコミでも多く出てきたダイバーシティ、いわゆる多様性が含まれる。これまでのように世界に向けて製品を輸出販売することや日本から部材を輸出して組み立て製品を逆輸入するのではなく、日本国以外が生産地、また社員や家族の住環境となる。これが簡単に言えるグローバル経済だが、基本的に違うのは、海外諸国や地域に根付いて生産活動を持続的に行なっていくことだ。これには地域の環境保全と多様な人類が最優先課題となる。

 

 

言い換えれば、これができない企業はグローバルに進出する資格はないということでもある。冒頭で、猫も杓子もと若干失礼な表現をしたが、これからはどんな理由があろうともグローバルに進出する基本方針を企業内で共有してから出ていくことだ。その基本方針とは会社のミッションと言い換えてもよいだろう。いわゆる金儲けは二義的であり地球に貢献する精神が優先される。金儲けだけであれば国内で十分できると考えるべきで国外での事業を控えることだ。海外での事業は地球を対象とすることを意味するため、安易に進出すべきではない。

自動車部品メーカの事故に話を戻せば、顧客である自動車会社がグローバル進出するのでついて行ったというのがあらかたの見方だろう。そのような会社は自動車メーカーの系列組織論でいうと少なくないであろう。ただ、独立企業としてのミッション、使命が問われるのであり、系列会社だからついて行ったでは通じない。しかし同社は自動車メーカーの資本を受けていない完全独立の部品メーカーであるため、この点は除外されるが、なおさら企業としての基本方針が重要となる。更に言えば、日本の最良の特徴である品質保証体制は世界でも相当認められている。例えば、大手空調メーカのエアコンは新興国市場でも高い価格設定だが、品切れになるほど売れている。それは何故か。日本製、メードインジャパンは、品質管理の行き届いた製品として顧客が認め支持しているからだと言える。偽物や紛い物が横行する途上国でも消費者の目は侮れないのだ。

私は、常日頃、セミナーや講演会で話していることは、五輪招致ではやった「おもてなし」でもなく「礼儀・気遣い」でもない。それは、日本流の顧客への真摯な心と決意である。日本製品は一度売ったら終わりでなく、顧客がその製品を使い切るまで修理や保全、部材の供給を欠かさない誠意ある心がアジアで歓迎されている。途上国でも新興国でも消費者や顧客は賢く、作り手・メーカーの気持ちを理解し、しっかり汲みとっているものだ。こういう心意気がアジア、中東、中南米諸国、果てはアフリカの人々にしっかり受け止められ日本製品が重宝される主因である。

今回の自動車部品メーカの事故でアジアを含めた世界の客が「残念」と思わないことを祈るばかりだが、同社はきっと顧客への真摯な態度を変えることなく持続的な経営をやり抜くであろうことを信じたい。そして、グローバル経営の神髄をくみ取って欲しいものである。

 

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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