特別編 食材偽装だけではない調達の基本

最大手ハンバーガーショップが鶏肉原料の一部に中国の食品会社の鶏肉を扱っていると認めた。ここには原料調達の関する二つの大きな問題が内包されていると思う。

  1. 安易なアウトソーシング判断(外部委託)
  2. グローバルサプライチェーンの構築に必須の人材

問題のサプライヤーは、保存期限切れの変質した肉類原料を大量に使用し保存期限シールを貼り替えるなどの偽装工作をしていた。こうした肉で製造されたチキンナゲットやステーキ、ビーフパティは主要なファストフードチェーンに販売されていた。特に鶏肉加工品は中国に優先的に供給されていたという。報道ではファストフードチェーンに責任を押し付けているが、中国政府の監督不足もある。但し、外資系企業は中国の食品安全管理が飾りだと分かっているのだから今回のような不法な手段でコストを抑えたのだろうと勘ぐらざるを得ない。

1.アウトソーシングの意味

内外作判断(Make-or-Buy)は企業の最優先課題であり最高機密だということが蔑ろにされている。精密な計算をせずに、しても結果主義で内容は後付け、では責任は誰がとるのか。最終消費者を念頭に置かず社内の原価、株主の顔ばかり気にしていると本来の経営判断ができなくなる。確かに2000年代はアウトソーシングの時代と言われてきた。この戦術は過去においても実施されていたが、選択と集中という経営方針へのシフトから自社の中核資源や目標に再度注目し経営資源を投入する代わりに他の業務を外部へ委託すること、このマネジメント法は欧米でも持てはやされた時期があった。但しインソースからアウトソースへ移行する際にはトップダウンの厳格で精密な比較分析が求められる。ファストフードにおける鶏肉など主原料は内作(社内で製造する)が基本で、外部委託は考慮外、あるいは関連会社での製造が次善の戦術だろう。

下図は自動車会社を筆頭とする組立産業の調達チェーンを代表したものであるが、ティア3(サプライの階層3番目のこと)XとYが海外にあるサプライヤー企業を意味する。製造メーカー(主要購入者)は直近のサプライヤー3社から調達するという模範的な購買手法を採っているが、よくよく見るとティア2が同じ供給元であることがわかる。そのティア2は原材料を海外から仕入れているため、主たる製造会社には見えない構図になっている。実はこの図は東日本大震災で利用されたものだが、

  1. 三社購買で安心する買手企業
  2. 末端に位置する主要な原料供給源を知らない買手企業
  3. 自然災害の発生する可能性のある地理上の供給元企業

ということがクローズアップされた。本節のストーリーで行くと製造メーカーである買手企業が自社内で製造するよりも、外部購入の方が利便性があると判断した場合、社外のサプライヤーを調査研究し最低3社からの購入となる。この場合、3等分でないことが多いが、本節ではこの点には言及しないことにする。

調達の基本

ここでの注意点は

  1. ティア1の製造状態、とりわけ生産管理体制と品質管理を監査し確認する。その場合忘れがちなのが何処から主材料を仕入れているか、である。仕入れ担当者と面談するのも良いが抜けることが多い。
  2. ティア1は3社以上あるのが望ましいが一般には複数としている買手が多い。しかしながら、上図のように三社とも同一一社からの仕入れであることを見抜く鑑識眼が要求される。このケースではABCはお互いに競合であるから、当然各社の仕入元も知っているはずだが、ここは聞かないと言わない。
  3. ティア3は外国に位置する企業であり、例え欧米系資本が入っていても所詮、新興国や途上国にてオペレーションされているローカル企業だ。この工場を管理監督するのは第一義的には外資系企業である。第二義的には代理店や商社であるが、双方とも能力に問題はないかを見届ける必要があり、それは最終的に購買機能部門の役目である。最終ではあるが、最初でもあるべきだと筆者は考えている。

さて、海外ソースについてLCC(Low Cost Countries)や新興国調達(Emerging countries purchasing)、オフショアリング(Offshoring)と言われ、一時期もてはやされたが、この体制が全く甘いと言わざるを得ない。日系企業は一般に海外に甘い、あるいは知らない故商社に任せるが、これが大失敗である。大手総合商社といっても、個々の部門は中小企業のようなものだし、まして商社内の部門競争は激しいため、買手に代わって生産体制や品質保証体制を精査する暇もないし、その能力も欠ける。

【提言】

I. 安易にアウトソースするな。

II. 取引は一対一でなく一対三対二対の階層で考えよ。

III. するなら経営者レベルで議論せよ。

IV. 何故内製できないか真剣に考えよ。

V. 海外立地の生産にはTCOで考えよ。(Total Cost of Ownership)

2.グローバルなサプライチェーンの最適構築

全体最適が目玉で誕生したサプライチェーン経営も各社が相変わらず部分最適に走るために全体を監視する職位、職務、また人材が欠如していることがわかった。サプライチェーンは供給源の信頼性と全チェーンを取り巻く関係者との相互理解が基本である。取引がグローバル化するということはサプライチェーンが同様に、いや同時にグローバル化することに他ならない。国内では何とか効率的、効果的なサプライチェーンを築けても、それはステークホルダー会社がしっかりサポートしているからだということを曲解している輩が多い。それでも何とか機能するが、一方で海外の供給連鎖網は決して安楽に見ていられないものがある。どうも日系企業は人任せな点が多い。日本流の持ちつ持たれつ式が機能すると思って途上国などに上陸するが、サプライヤーやトラッキング、ロジスティックという利害関係者との信頼関係の醸成、構築に思った以上の時間がかかる。言語、宗教上の問題もあるが、筆者はむしろ海外オペレーションに慣れていない日本人スタッフやローカル社員との意思疎通の欠如とみている。アジアでも前節で述べた複数のサプライソース調達も実現しているが

  1. 持続可能性
  2. 緊急時の対応
  3. サプライチェーンの成長支援と育成

を問題視したい。

ここで再度マスコミ報道を確認する:

大手コンビニエンスストアも最大手ハンガーショップもチキンナゲットはタイと中国の数社から輸入しているが、主要仕入れ先の食品会社とは2002年から取引を始めているという。そして最大手ハンバーガーショップは仕入れ先の切り替えを進め、翌日には全店舗での販売を再開する方針と表明した。大手コンビニエンスストア社長によると同社は仕入れ前、社員を現地工場に派遣し、安全管理体制を点検した。発売前にも取引を仲介した商社が品質を確認した。社長は「かなり厳しくチェックした中で起きたのでショックは大きい」と述べる一方、「先方の原料のチェックまではしていない」ことも明らかにした。

この報道が真実ならば購買プロから言わせれば、サプライチェーンを実に甘く見ているとしか言いようがない。

まず、仕入れ先の切り替えを即座にできるわけがないこと、例え数社の仕入れ先を常時保有していてもスイッチングコストを無視した言い方は消費者に対し失礼だ。第二に、仕入れ前、社員を現地工場に派遣し安全管理体制を点検したというが、実際にどういう機能部門の社員が、どういう頻度で監視し、モニターしているのか。第三に、商品の発売前にも取引を仲介した商社が品質を確認したというが、商社のプロとしてのスキルや品質保証のプロが実際に行ったのか知りたい。品質チェックや生産管理までも第三者機関に丸投げでないことを祈るばかりだ。

社長曰く、かなり厳しくチェックした中で起きたのでショックは大きいと述べる一方、先方の原料のチェックまではしていない由。ここから明確になったのは、原料のチェックは誰かに丸投げかも知れないということだ。

自動車業界では、ことあるごとに兵站(logistics)が伸びきっていると言われてきたが、最適な兵站とは軍事から来た発想で、これは平時において産業取引で完璧に通用する考え方だ。兵站(Military Logistics)は戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したものであり、戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、実施する活動を指す用語だ。これには物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。兵站は一般の軍事理論では補助的なものではなく主要な地位を占め軍事作戦の遂行を基礎づけるものであると受け止められている。「戦争のプロは兵站を語り、戦争の素人は戦略を語る」という格言はそのような兵站の重要性を端的に強調したものであると言える。また「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」はロジスティクスの要諦であり、兵站任務を円滑に遂行する作戦地域と兵站基地との交通上のつながりを維持するために数理的、物性的、情報的な管理がキーとなる。ここでは完全に商取引の発想と合致するが最大の差異はリスクに対する受け止め方であろう。複数の兵站基地とそれらを相互に接続する道路、鉄道、水路、海路、航空路で構成される後方連絡線の結節点となる兵站基地は生産・交通の要所に平時から設置される戦略兵站基地だ。

話は逸れるが国内取引よりも海外取引、グローバルサプライチェーンを担う人材は戦争用語である兵站と戦略について今一度見直してみても良いのではなかろうか。但し、筆者は戦争を是とするものでないことを断っておく。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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