第2回 経営におけるサプライチェーンマネジメント

社会的責任経営という言葉がまことしやかに述べられるようになってきました。便利な言葉ですが、実践できている会社は少ないようです。この社会的責任に関する国際規格は、ISO 26000 として 2010年11月に発行されました。本ISO規格の名称は "Guidance on social responsibility" と言い、他の規格(ISO 9001, ISO 14001 など)のように要求ではなく、あくまでガイドである点がポイントです。日系企業はJIS規格やISO規格が大好きなので社員の名刺にロゴを載せて宣伝のように使っていますが、これには少々違和感があります。同じく多くの企業のサイトを見てもほぼ同じように自社の社会的責任経営を唱えています。サプライチェーンだけを見ても、グリーン調達、環境マネジメントシステム、紛争鉱物不使用に関する問題、人身売買や奴隷などにかかわる米国法、英国贈収賄法など企業のサプライチェーンにおけるCSRへの取り組みに注力している一方で、人権への配慮と紛争鉱物不使用の項目を追加したりして、都度改訂を実施している。非常に良い方向だと思いますが金太郎飴的なところは否めません。恐らく業界団体などで歩調を合わせることが業界基準を順守することではよいことかも知れませんが、各企業独自の視点があまり見られないのは残念です。こういった理念が全社員に行き渡っているかが問題で、欧米の企業にも言えますが、社長直轄のCSR専門室が先頭を切って走るのはいいが、他部門、特にサプライチェーン部門が国内と海外で同様について行っているかどうかが心配です。特に今後は、新興国のサプライチェーン上の調達取引先と共有することが求められ、また会社方針として謳っている以上は、そこから逸脱することは許されないでしょう。

社会的責任の定義

大きな企業になるほど多くの利害関係者がおり様々な意見がありますが、現場重視の日本企業こそ特に海外で働く従業員の現場意識の中にSRを醸成して欲しいものです。図1は米サプライマネジメント協会が2004年に初めて作成した”ISM Principles of Sustainability and Social Responsibility”規約ですが、これを2012年に大幅に変更しています。変更点というよりも加わった項目を言うと米国企業の本気度がわかります。つまり、贈収賄の禁止、グローバル市民権、労働権、そして持続可能性です。

本来の社会的責任には、これら10項目にわたる要素が含まれてはいるのですが、欧米社会でも、贈収賄について結構誤解があります。例えば、今年の2月米司法省によれば、ブリヂストンはトヨタ自動車 や日産自動車 などのメーカーに販売した防振ゴムの価格を操作し、販売を割り当てる共謀に2001年から少なくとも08年12月までこれに関与していたと発表されています。 同省は自動車部品業界の価格操作や談合について反トラスト法(独禁法)違反の疑いで調査を進めてきており、ブリヂストン側は価格カルテルに関与した事実を認め約435億円の罰金を支払うことで米司法省と合意しています。同時期にタイヤ世界5位の住友ゴム工業は、資本・業務提携する同3位の米グッドイヤーから提携関係解消の申し入れを受けたと発表、両社は現在、日米欧にタイヤの生産・販売など6つの合弁会社を持つが、すべてを見直す方向で交渉を進めることになっています。企業が海外での事業を拡大する中で避けて通れない事実ですが、会社のウェブサイトであれだけコンプライアンスを謳っておきながら実損害と間接被害は相当なものになります。図2は日本企業が潜在的に抱え持つ課題と言えるものです。

SCMの課題

筆者が主催するサプライ研究会での研究論文で日米の社会的責任を比較したことがあります。当時は7つの要素での比べ合いでしたが、倫理と財務的責任、それに多様性で米国より劣っているという結果でした。日本でも最初の2つは説明できますが、多様性について当時としては相当新しい概念として受け止められたという気がしています。2005年のことですから日本企業では社内、即ち社員を中心に多様化しようと考えている一方、米国では社外が中心になってきていることが新鮮でした。そして社外のステークホルダーの範囲は限りなく広がってきています。同時に、多様性、多様化社会の中味も日米で異なり、また概念が年々進化しているということも注目しなければならないのです。ダイバーシティも漸く国内でも和訳する必要がないくらい浸透してきたようです。地球規模で見ますと多様性の概念は限りなく広がっています。米国でも当初は女性、障害者、少数民族が中核でしたが、国家の情勢と併せて拡大してきています。退役軍人、高齢者、社会的弱者など、その範囲は拡がって来ています。つまり、地球という枠組みで考えてみると、これまでの日本の島国の感覚が大きく変わります。ダイバーシティは謂わば地球環境と似ているのです。

当時の7要素の内、4勝3敗という結果でしたが、勝利した要素から日本同質社会を表しているような気がしました。コミュニティーという社会集団組織、環境では公害から島国の人を守ろうとする概念、人権は日本のほぼ一民族という公平感から古くからあった習慣、そして安全衛生は戦後の日本人の持つ清掃清潔意識だと説明できます。SR概念が出てきた2000年当時、国内では「何を今さら」という気持ちがあったことは事実です。倫理観も含め社則や会社の理念に書いてあることで社員はみな熟知しているというものでした。ただ、それは絵に描いた餅でもあったのです。そしてサプライチェーンの概念が公になった90年代後半では、社会的責任を取引連鎖に重ねることは考えもしなかったのです。日本には暗黙の了解や言わずもがな、という風潮があります。言われなくともきちっとするという精神ですが、こと会社組織となると社会の規範を守ることが難しい場面が出てきます。前述の米反トラスト法違反はその最たるものでしょう。例え、非効率、不経済であってもコンプライアンスを酸っぱく言う以上は法律を遵守し公正なサプライチェーンを構築しなければならないのです。現場が勝手にやったという言い逃れは許されませんし、同じ会社の社員を厳しく教育しなければならない本社側の大いなる責任なのです。社会的責任も教育の一環で新入社員から役員まで各階層(ヒエラルキー)で取り組みが違っても精神だけは同一でないといけないのです。

著者紹介

上原 修 (うえはら おさむ)CPSM C.P.M. MBA JGA
特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会TM
仏ESSECビジネススクール 国際調達・特任教授
法政大学経営大学院サプライチェーン兼任講師
東京工業大学大学院MOTサプライチェーン戦略スクール講師

略歴
大学卒業後、日本鉱業株式会社(現:JX日鉱日石ホールディングス株式会社)にて購買部に勤務、コンゴ鉱山開発会社駐在、本社国際購買担当部長、日鉱ニューヨーク事務所長歴任。米系外資(株)アルファパーチェスにて常務・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.) 及びグローバル調達経営資格(CPSM)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplome学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部修了Diplome学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール修了。

主な著書
『枯渇性資源の安定調達戦略』(単独著)2011日刊工業新聞社、『人にやさしい会社 安全・安心、絆の経営』(共著)2013白桃書房、『フランス人の流儀-日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』(共著)2012大修館書店、『ISO-26000実践ガイド』(共著)2011中央経済社、『グローバル戦略調達経営』(単独著)2008日本規格協会、『購買・調達の実際』(単独著)2007日本経済新聞、『やさしいCSRイニシアティブ』(共著)2007日本規格協会

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